4歳 シンリー(24歳) クロイの報告
走って玄関先へ出てきたスカーレット。
待ち構えていたクロイに驚いた後、気まずそうに俯いて馬車を待っていたらしい。
そこへセルリアンが来て、後ろからスカーレットの腕を掴み、
「リュージは愛が無くても女を抱けるような奴だ。お前はそういう奴が嫌いなんじゃないのか? それなのに何でリュージなんだ!? あいつにお前を渡したくない。俺は、お前のことを…お前が婚約破棄した頃からずっと好きだったんだ」
と告ったそうな。名前を出されて、あいつ呼ばわりされた陛下を見ると…苦笑いしていた。
告られたスカーレットが、
「…あんた何言ってんの? リュージのは…それでも…国のためでしょ。私が一番嫌いなのは、欲望の捌け口として女性を扱う男よ。…私…あんたは、リュージが私とカンベラに言ったように、色んな人と付き合って、自分に合う人を探してるんだと思ってたわ。私のことをずっと好きだったって…それが、もし本当なら、あんた最低ね。今まで付き合ってきた女性、全て性の捌け口だったってことでしょ。その汚い手を離して!」
そう言って、セルリアンの手を振りほどこうとした。
が、
「違う! 俺は、そんなことの為に付き合ってたんじゃない! 仕事で…脱税の調査をするために、その為に付き合ってたんだ!」
そう言うセルリアンに更に強く掴まれたらしい。
「痛っ! 離してって言ってるでしょ! 仕事で…って、相手の女性はそれを知ってたの?」
その言葉と共に真っ直ぐに向けられる視線に耐えられず、視線を逸らすセルリアン。
「…その様子じゃ知らなかったみたいね。…ふざけるんじゃないわよ! 何も知らない女性をその気にさせてスパイ道具に使ってたっていうの!? 女を馬鹿にするのも大概にしなさいよ!」
憤慨するスカーレット。
「女を馬鹿にしてるんじゃない! 俺が男だから相手が女だっただけで、俺がもし女だったら、その時は男に同じことをした! 人を騙したことを罵られるなら受け入れるし謝罪もするが、差別をしたと思われるのは…奴隷制度撤廃に携わった人間として…受諾できない」
静かに憤慨し返すセルリアン。
「…あんたが差別したと思ったのは謝るわ。…でも、あんたも愛が無くても抱いてるんだから。 リュージのこと言えないじゃない」
セルリアンにつられたのか…トーンダウンしてスカーレットが言うと、
「…抱いてない…俺は……童貞だ」
更にトーンダウンしたセルリアンがボソッと言ったそうな。
「えっ? 何? 聞こえなかったんだけど?」
トーンダウンし過ぎて読唇術が使えるクロイにしか聞こえなかったらしい。
「…俺は! 誰も抱いたことは無い! 童貞だ! 最初に抱く女は、嘘偽りなく本当に大好きな女! スカーレット、お前だと決めている!」
今度は大声で言ったそうな。…人んちの玄関前で止めて欲しいな。まぁ、俺んち小山の上の一軒家だからいいけど…。
そして、クロイよ。1回目の童貞発言は省略してやっても問題なかったよな。
真っ赤になったセルリアンとスカーレット。
無言の2人のもとに馬車が近づいてくる。
先に…セルリアン家の馬車が来たらしい。
「じゃあ、俺の気持ちはそういうことだから…今はまだ領地のことや財務長官のことで忙しいが…落ち着いたら、改めて結婚を申し込ませてもらう」
そう言って、スカーレットの腕から手を離し、クロイの方へ来ると、
「シンリーにちゃんと祝辞を言えなかった。おめでとう、良い年になるよう祈っている、と伝えておいてくれ」
と言って、馬車に乗り込もうとした。その時!
「私はリュージのことが好きだから…あなたの想いには応えられない」
自分の正直な気持ちを誠意をもって伝えて断るスカーレット!
そんな彼女に対して、
「ふっ、そんなの今更だ。それを知ってても今まで諦められなかったんだ。悪いが…これからはお前だけを口説き続けさせてもらうからな。早く俺の魅力に気付けよ」
「そんな恥ずかしいセリフを残して、セルリアン様は馬車に乗り込みお帰りになられました」
クロイ! 世の中には正直な気持ちを口にしてはいけない時があるんだ!
「よくあんな恥ずかしいこと言えるわね」
呆れた様子で言ってから、少し微笑むスカーレット。ここは言っても良い時だ。
「…クロイさん。ここでのこと…中に戻ったら話すわよね」
「…国王陛下や当家の主から訊かれれば答えないわけにはいきませんので」
そう答えたクロイ。
いや、待て! お前、カンベラとフレージュに言われて話し始めたよな!?
「はぁ~~~。恥ずかしくて当分、皆に顔を合わせられないわ」
両手で顔を覆うスカーレット。
「この程度の恥ずかしさで顔を合わせられないのであれば…当家の主は一生、皆様に顔を合わせられなくなります」
「ふふ。シンリーは馬鹿正直で、それを隠そうとしないものね。自分の気持ちに正直で、それを表に出すことを恥ずかしいことだとは思ってないから、誰も敵わないわ。不敵…そういえば、少し悪魔除けの天使に似てるわね」
そう言って微笑み、顔を覆っていた手を下ろ…さないで、突然、クロイに抱きつくスカーレット。
「ふゔっ…私、昔はそんなシンリーのことを好きだったの。王子のリュージにも遠慮なく文句を言いながら、皆の為に頑張る姿が好きだった。でも、ナタリーって素敵な女性がいて…私の入り込む余地なんか無くて諦めて…。次に、奴隷制度のことで物凄く一生懸命 頑張るリュージの姿を見て好きになったんだけど…王太子になったら、すぐに側室を5人も娶って世継ぎを作り出すし…。それでも、正室を迎えてなかったから…公爵令嬢で法律のことも分かる私なら…こうやってお忍びで集まる仲間で近い位置にいる私なら、もしかして! って思ってたんだけど…」
強く、クロイにしがみつくスカーレット。
「ダメだったみたい」
そう言って、涙を溢れさせたスカーレットを優しく抱きしめるクロイ。
「えっ? お前、スカーレットのことを抱き締めたのか?!」
「震えておられたので暖めて差し上げようと」
「余計なことをするな! スカーレットがお前に惚れたらどうするんだ!」
「安心してください。泣き止まれた後…お嬢さん、俺に惚れたら火傷するぜ…と誠意を持ってお伝え致しました」
「お前よくそんな恥ずかしいセリフ言えたな…」
「ふふ。火傷はイヤね、痕が残って忘れられなくなりそうだわ。そうね…取り敢えず、素敵な出会いを求めてカンベラと連日パーティーに行くことにするわ」
「セルリアン様が傷つかれるのでは?」
「今までたくさんの女性を傷つけてきたんだから、その罰よ」
そう言って、少し腫れた目で楽しそうに笑ってから、
「シンリーに、お誕生日おめでとう! いつものように笑顔が溢れる素敵な一年になるよう祈ってるわ。と伝えておいて」
「そう言って、遠巻きに佇んでいた馬車に乗り込みお帰りになられました。以上です」
クロイからの報告が終わった。
「よし、わかった。じゃ、ナタリーに手紙を書くから紙とペンを持ってこい」
ようやく言えた。




