表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/600

2歳 忍者の里



 う~ん、何か違う気がしてきた。桶と布は気になるけど……。


「あの……2人は本当に盗賊じゃないの? プーマさんとお父様は何かの師弟関係にあるの?」


「本当に違いますよ。いい加減、その警戒心を解いて下さい。結構、傷つくんですからね」


 すぐに立ち上がれるように床に手をつきながら訊くと、チヨネ姉さんが、少し切ない表情をしはった。


 それでも、手をついたままにしてると、


「はぁ~、わかりました。ちゃんとお話ししますよ。お2人に話してどれだけ理解してもらえるかは分かりませんが……じゃなくて、その前にっ! お2人の傷の手当てをさせてもらいますよ。あなたは、お茶をお願いします」


 そう言うて、私達の返事を待たずに兄様の横に水の入った桶を置くと、その中に白い布を浸して持ち上げはった。

 兄様と2人でビクッ! ってなりながら見守ってると、その布をギュ~っと力強く(ねじ)じって絞らはった。……ホッ。


 そんな私達の様子を見て、


「まさか、濡れ布で殺されると思ってたのですか?! そんなことまで、シンリーは教えてるの?!」


 チヨネ姉さん、ビックリ顔で言わはった。


「父様に教わったんじゃないよ。本に載ってたんだ」


 兄様が訂正すると、


「分かりましたから、坊ちゃま、後ろの壁に寄っかかって脚を出してください。……そんなに深くはないようですけど……ケガをしてるのに、よく正座なんかしましたね」


 優しく血を拭いながらそう言うて、箱階段の引き出しから擂鉢(すりばち)擂粉木(すりこぎ)を、別の引き出しからは(なん)かの葉っぱを出してきはった。

 で、擂鉢(すりばち)擂粉木(すりこぎ)を囲炉裏の火で軽く(あぶ)ってから葉っぱを()り潰し、お茶くみ係のプーマさんが元の位置に戻した鉄瓶のお湯を少し入れペースト状にしていかはる。


 その間、お勝手(キッチン)の方でお茶淹れたはるプーマさんを見ると……ええーーーっ!


 ティーポットを頭の上の高さまで掲げて、膝ぐらいまで下げたグラス(氷入り)に紅茶を注いだはる!

 これは……紅茶が冷えたときに不味(まず)くなってまうクリームダウンを防ぐための淹れ方! 昔、梅田の喫茶店に行ってた時のこと思い出すやん! さすがに脇腹チラリはないけど……。


 って、緑茶ちゃうんかーーーい!

 こんだけ日本、日本してて、なんで紅茶やねん!


 私が心の中でツッコんでる間にお薬らしきものが完成したようで、チヨネ姉さんが擂鉢(すりばち)の中のものを傷口に塗り付けていかはる。


「あまり動くと取れちゃうので、(しばら)くこの状態を維持してくださいね」


 って、優しく言わはった。


 その後も、私達の顔や手についた土とかの汚れを拭って、小さな擦り傷や切り傷に薬を塗ってくれはった。あんまし()みひんから、逆にちゃんと効くのか心配にならなくもない。

 

 

「一体、どんな本を読んだのですか?」


 アイスティーを運んできたプーマさんが座りながら訊いてきはった。


「【魔王ランスロの検挙録】だよ。メアリーが好きなんだ」



◇◇


 【魔王ランスロの検挙録】


 私のお気に入りの本や!


 犯罪者から魔王と恐れられる、王都の憲兵の長官であるランスロ。

 情状酌量の余地が大いにある個性的で各々(おのおの)秀でた能力のある元犯罪者7人を懐柔(かいじゅう)して信頼できる密偵にし、そんな仲間と共に犯人を捜し出し、確信できたところで憲兵の、これまた個性的な部下たちを引き連れて殴り込みに行き、容赦なくぶっ叩いて検挙したり、犯罪を未遂のうちに解決したりなんかして……最後には(みんな)(なご)やかに話をしながら美味しい紅茶を優雅に飲む。というシリーズものである。


 いや、もぉ~、懐柔された病んでた7人のランスロ様への忠誠っぷりが素晴らしいんですわ! 憲兵サイドの部下さん達とランスロ様を取り合ってるのも面白いし、密偵側の女性に一途に想いを寄せる憲兵男子とか、ちょいちょい恋愛話や友情話が盛り込まれるのも楽しいねんなぁ〜。巷には、密偵側の男性と憲兵側の男性の薄い本も出回ってるらしいが……。


 家族で喫茶店に入った時、後ろに座った女の子達の会話に聞き耳を立て、いや、そんな王道の組み合わせは却下や! などと心の中で呟いてたら、

「メアリーが俺を無視した! あと20年、いや30年は大丈夫だと思っていたのにーー!」

 ってお父様が騒いだな。


 分かってへんねんな~。31歳までいったら普通に父親と喋るがな。それより、もっと手前、思春期真っ只中の15年後を心配するべきや。


◇◇



「えっ、あれを坊ちゃまやお嬢様が読んでるのですか?」


 プーマさんがびっくりする。


「うん、僕は【天誅!御掃除代行人】の方がカッコイイ技を使うから好きなんだけどね」



◇◇

 【天誅!御掃除代行人】

 

 今度は兄様のお気に入りの本。やけど、私も気に入ってる!


 教会で働く修道士のモンドルさんが主人公。

 普段は温和な人やけど実は裏の顔があって、権力者とかに理不尽に殺された人の遺族から、お掃除代行料金を支払ってもらって街で働く5人の裏の仲間と仇討ちを遂行するという話や。

 街のお仲間さんは自分の仕事道具を得物(武器)にして権力者達の部下とかを人知れずこっそり殺す。兄様はここがお気に入りで、私は ―― モンドルさんが最後に1番悪い権力者を殺す時に言わはる決め台詞「おや、こんなところに大きなゴミが。さっさと処分しないと、鬱陶しくてかないませんね」を、むっちゃ冷酷な感じで言わはるとこが好きやねん!


 普段の温和な感じとのギャップ! かっこええ~~! 私も部屋とかでゴミ(ひろ)てそれ言いたいのに、ウチのメイドさんら、ちゃんと仕事しはるから出来ひんねんな……。


◇◇



「あ~、なるほど。そんなのも読んでるんですね。今回の騒動の理由がわかりました。こりゃ、これから話す内容も理解してもらえそうだわ」


 呆れながら、そう言うたプーマさん。


「ってことは……このアイスティー達も私が口をつけるまで飲んでもらえなさそうですね」


 苦笑しながら、兄様と私の前に置かれたアイスティーを一口ずつ飲まはった。


 ……チッチッチッチッチッチッチッチッ………ゴクン。


 少し時間が経ってから飲んだ。私の好きなアップルティーや。

 氷が溶けて、水っぽい……。非常に残念や……。


「はぁ~、せっかく美味しく淹れたのに……。今度からは美味しい状態で飲んでもらいたいので……私達のことをお話ししますよ」


 って前置きして、プーマさんが話してくれた内容は ――


 ほえ〜~、ここは前世でいうところの忍者の里やった!

 太秦(うずまさ)(ちご)てほんまもんの!! 甲賀とか伊賀って感じやな。

 で、こっちでは忍者やなくて【影】って言うらしい。


 で、その【影】は、代々このキーモン領の保守をやってるとのこと。

 モモ爺もここの里長なので領主代行という形で保守中。

 というか、メイド筆頭のヤーサ、住込みのお医者さんトクター先生も【影】なんやって! 近くにいて領主一家を保守したり、私利私欲に走りそうになったら戒めたりするらしい。


 【影】の2割の人が領内で住んでて、残りの8割の人は他の領地や周辺国で暮らしたはって、働きながらキーモンに関わりのありそうな情報を収集したり、里長の指示で犯罪の証拠集めなんかもしはるらしい。

 モモ爺……。今までの色んな調査、国家憲兵や街の自警団の人に頼んでたんやと思ってたけど、自前の自警団を使ってたんやな!


 あっ! あと、子供を修行させるために戻ってくる人とは別に、孤児で素質のありそうな子も里で引き取って【影】になってもらうこともあるらしくて、孤児院の院長も【影】の人とのこと。


 そして、アスレチック遊具は修行道具で、その他、普通に山や海でも修行するらしい。

 少年Aこと “ ふんどし君 ” は本名をキリカ君といい、プーマさん夫婦の実子で、他の修行仲間と “ 人に怪しまれないように張り込む訓練 ” 及び “ 人の特徴を覚える訓練 ” をしていたらしい。

 昼間に覚えて、夜、モモ爺と答え合わせをしてたんやって。


 それから、お父様やお母様、私達、領主一家のことやねんけど、今みたいに領主に【影】の存在を明かすことは少ないらしい。

 領主は国の指示で入れ替えの可能性があるらしく、あまり変な領主に話して他所(よそ)へ移ってから喋られたら困るから。

 ってことらしいから、どうやら私と兄様は信用できると認められたみたいや。


 それにしても……領主やなくて、あくまで領を守るんやな。

 あれ? ってことはやで、モモ爺がほんまもんの領主ってことなんちゃうん?!

 モモ爺、裏番やん! 私的には執事なモモ爺が好きなんやけどな……。


 それから、プーマさんのことを師匠って言うてたお父様のことも聞いた。

 通常、領主には修行させたりせえへんのやけど、お父様とクロイが11歳の時にここへ来て修行を希望し……最初は断ったらしいんやけど、三顧の礼(言うても3回訪問してきただけのレベルやけど)+お屋敷に勤めてる影の人を脅迫したらしくて、しゃ~ないから、当時 里にいるメンバーの中で15番目ぐらいの実力があったプーマさんが教育係になったらしい。

 そりゃそ〜や、1番実力のある人には仕事してもらわんとな。


「最後に……言わなくても分かっておられるとは思いますが、今の話は全てご内密に」


 プーマさんがそれっぽく言わはったので、


「「 御意! 」」


 私達もそれっぽく答えた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ