前夜
高校入学式前夜
俺と、アムは、花札を嗜んでいた…
花札とは自分の8枚手札の中から一枚捨て同じ絵柄の札に札を合わせ札を獲得していきと絵柄が合わない札は場に残り……これを繰り返し最終的に獲得した札で先に『役』が出来たら勝者となる
先に役が出来た上で「こいこい」と宣言すると勝負を続行することが出来……そこでまた『役』が揃えば更に加点出来るが……
相手に役を揃えられてしまうと「こいこい」宣言前の加点は全て無効となる
花札は運と心理が詰まった日本ならではのカード遊びである……
アムは目が見えないため目の障害者用の点字がある花札を使っているが
戦況は劣勢……いやズタズタかもしれない
「(ヤバい…カスを揃えられる前に手を討たなくては)」
俺が……
「ほいっス、花見酒っス、仕方ないからコイコイするっス」
「(か、完全になめられている!!このままだと、や、やられる!!)」
アムが、コイコイしたことによってチャンスが生まれた…
ここで決めなくては、今の手札は三枚
菊 牡丹の蝶 梅
この蝶札さえとれれば猪鹿蝶がそろう
蝶を出し、山符から一枚めくり、タネが後一枚で揃う
「(笑うなまだ笑うな…後10秒で僕の勝ちを宣言しようフフフフ!!)」
「無いっスね」
アムは、手札も揃わなく山符のも揃わなかった
二ヤッと笑みを浮かべ
「(計画通り!!)」
これで、やっと連鎖は、断ち切られると思った…
雨符を取ったまでは、良かった
しかし山符はかすりもしなく
アムの番でカスを揃えられてしまった
「訳が分からないよ…」
「これで兄さん50敗スよ」
「罠だこれは、罠だ!」
「罠も何も兄さんの考えがりんご飴より甘いだけっスよ」
アムは、昔から物覚えが良くたった一回の教えですぐに行動に移すことが出来る
中学の全国模試もいつも1、2を争う実力の持ち主であり
倍率の高い脳内がコンピューターの奴らが通う高校にだって入れるのに
普通の私立の鹿山学園に入学するのを決めた…
「なあ、アム…」
「ん?どうしたんスか兄さん?」
「どうしてお前は、俺とハルトが通うことになった鹿山高校を選んだんだ?
お前は俺よりも万能なのに…」
光を通さない眼差しと妙に微笑んだ顔でこちらを見つめゆっくりとした足取りで近づき
「なんとなくっスよ」
その一言を呟くと人差し指を俺のおでこにそっと添えた…
「脳内がコンピューターみたいな人たちと勉強してもつまらないだけっス……三年間も一緒の高校で馬鹿やってた方がましっスからね~そんな兄さんが思っているよりも単純なんスよ……えいッ」
パチン!
「いっ!!て!?」
「んじゃまた明日っス~」
バタン
アムは俺の部屋を出た
鏡を見なくてもデコピンをくらったところが赤くなっているのは、分かっていた
予想よりも痛かったが俺のもやもやした感情は何処かへ無くなっていた
「ちょっと考え過ぎていたかもな……寝よ…」