制服の足の林立
「じゃ、気を付けて帰りなよ」
「うん、また明日ー」
高校に入ってからできた唯一の友人を部活に送り出し、「さあ帰ろ」と鞄を掴んだら立ち塞がれた。とすんと自分のイスに逆戻り、尻もちをついてしまう。
スッと近付いてきた4人の男子に机ごと取り囲まれている。
――恐い、恐い、恐い〜。
いくらクラスメートでも男4人がつるめばいるだけで暴力だ。
「ヘルプ〜」とまだ残っていた女子に目線を送ってはみたものの、ちらりとこちらを見ただけで、街に出て遊んで帰ろうとおしゃべりしながら教室を出ていってしまった。
――自業自得かな、普段の愛想の無さが、命取り。
地元は山間部でたいした高校がなく、県庁所在地の公立を選んだ。毎日40分かけて電車通学している。ドアツードアで片道1時間10分の道のり。
同中の女子は学年どころか学校全体にもいない。
学区内からなら中の上の成績で入れる学校らしい。でも自分にしてみたらかなり気合を入れて受験勉強した第一志望。
どうしても温度差というものを感じてしまう。
自分は垢ぬけない田舎者、という劣等感もある。
独り、制服のズボンの林の中に取り残されていた。
「何なのよ〜」と言えたらもう言っている。誰だか顔をみるのも恐い。
で、つい俯き加減になるのだが、中途半端な高さで止めると、チェック柄のズボンのあらぬところに視線がいく。これでは机を見ているしかなさそうだ。
男子は体の特定の部分を見られて意識したりしないのだろうか?
――あ、また頭が勝手なこと考えてる。ヤバそうなのに。
「早坂未来、なんでお前いつもテニスのサポーターしてんの? オサレのつもりぃ?」
口火を切った声は腕白系リーダー格の上森。
「ミサンガとかのがかわいくない?」と腰巾着の瀬田。
「いずれにせよ、風紀違反だろ?」
参謀格の橋本の発言の後、もうひとりは黙りこくっている。
「あ、汗かきなんで……」
声が震えてしまったのは失敗だ。
「「「はあ〜?」」」
3通りの音色でピッチの揃った反応が返ってきた。
4人目はやはり黙ってるんだ、誰なんだろう、まだ捕捉できない。
集中、集中、何とかやり過ごさなきゃ。私はどうも目の前の出来事より考えごとに埋没してしまうんだから。
『両膝カックン腰くだけ除けサポーター』だなんて、言えるわけがない。
「風紀の先生の了承は得ましたから……」
「リョーショーは得ましたからあ〜?」
瀬田が科を作って猿真似をすると橋本は冷ややかに、
「なんかお高くとまってるんだよね」と嫌みたらしい。
――人には人の事情があるんだから、ほっといてよ。
衣替えしてからというもの悪目立ちの左手首のサポーターを睨みつけ、心の中で悪態を吐きながら、風紀の多田先生とのやりとりを思い出す。
あれはもう2か月前、ゴールデンウィーク明けの登校時。