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6.提案

「ああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 その晩、俺はベッドの上でのたうち回っていた。もんどり打っていたと言ってもいい。ジタバタと手足を動かし飛び上がったり回ったり、ああもう、まったくもって落ち着かない。


 ——俺は黒木と、一緒に学校に行きたい——


「うがああああああああああああああああ!!!!!!!」


 思い出すだけで顔がかっかと熱くなる。心臓が激しく鼓動を繰り返す。羞恥心に身を焼かれそうだ。

 恥ずかしい。なぜ俺はあんなことを口走ってしまった?

 …………そりゃあ、それが本心だからだ。

 だから本心を包み隠さず口に出したってことが恥ずかしいんだろうが! ああっ、くそっ、穴があったら埋葬してくれ。


「——ぁぁああ……!」


 隣の家から叫び声が聞こえる。

 もしかして、俺が言ったことを思い出して嫌悪感を感じているのではないだろうか……。だったら本当に申し訳ない限りで、お互いの為にもこのことは早く忘れたい。


 というか、黒木の反応から早々に察するべきだったのだ。

 俺が言い方なんてものを考えずに心中を吐き出してしまった直後、黒木は「そうか」と呟いて、すぐに厚手のカーテンを閉めてしまったのだ。引かれてるよな、引かれてんだよなこれ!


 あーこんちくしょう、黒木とのコミュニケーションはいつも間違えてばかりだ。なんだろうな、顔が見えないからブレーキが効かなくなってるのだろうか。


 ……と、とはいえ? 今まで間違えたと思っていたことも、黒木からすればそうでもなかった、みたいなことばかりだったし? 今回も……うん、大丈夫大丈夫!

 ……いやどうだろうな。不安でしかない。


 ブー、ブー。


 と。

 どうにも自分を安心させることができずにいると、スマホが鳴った。


『あんこ

 さっき話したことなんだが…』


 画面には、黒木からのLIMEの通知が来ていた。

 さっき話したこと、というのは……現在後悔中の会話のことだろう。う、うぐ……向こうからその話を掘り返してくるとはな…………。

 俺は覚悟を決めて、通知をタップする。


『さっき話したことなんだが なかったことにしないか』

「ぐはっ……!」


 望んだことではあったが黒木のほうから提案されるとなると、心境としては吐血してしまいそうなくらいだった。

 いやいや、それでいいんだ。こっちが気持ちの悪いことを言ったのだから、その代償と思えば。


『ああ忘れよう。俺もなぜあんなことを口走ったのかわからない。』

『? なかったことにしたいのは私が言ったことだ』


 ……? 意味がよくわからなかった。


『何か変なこと言ってたっけ?』

『忘れたいんだから思い出そうとしなくていい!』


 そう言われると余計に気になるな。


『俺が忘れたかったことを教えたら、黒木も教えてくれるか?』

『多分』


 多分、ね。まあいい教えてしまおう。

 俺は自分で言った、恥ずかしくて堪らない言葉を、要約しつつ再度文章として黒木に伝える。なんだこの苦行は。歯を食いしばらないとやってられない。


『こんなこと言っただろ。恥ずかしいから忘れたいんだ。次は黒木の番だ。』


 火照った顔を手で扇ぎながら、黒木にバトンを渡す。

 こんなに身を切ったんだ。お前も相応の返しをしてくれなきゃ泣いてしまうぞ。

 だというのに。


『私は教えない』


 黒木のやつ、逃げやがった! 


『和泉 お前のそれは忘れなくていい

『私も自分で言ったことを忘れる気はなくなった

『言って良かったとすら思った』


 そんなメッセージが連なり、黒木は勝手に納得して、それ以上メッセージは送られてこなかった。

 結局、そうは言われても俺はやっぱりまだ恥ずかしいし、黒木が忘れたかったという言葉もわからずじまいで、ただただモヤっとしただけのやりとりだった。


 そんなモヤモヤをどうしようかと、悩んだ俺は友基に相談することにした。


『恋バナ?』


 それが友基からの返信だった。


『なんでそうなる。俺は黒木とのやりとりにモヤっとするって話をしてるんだ。』

『だってお前、黒木のことになると、わりと冷静さとか無くすだろ? でもって今日は黒木の言動でモヤモヤしてるって……恋だろ』


 くそっ、文字だとニュアンスが伝わらない。


『それに、恥ずかしいかどうかは別として、お前のセリフは口説いてるみたいでいいじゃないか。「お前がいれば俺も楽しい」「一緒に学校に行きたい」とか』

『やめろよ、それっぽく見えてきて尚更恥ずかしいっての。』

『もういっそデートにでも誘えばいいんじゃないか?』


 この野郎……しかしデートと言われ、俺は一つの妙案が浮かんだ。

 黒木に伝えたあれこれは、恥ずかしいとはいえ本心だ。黒木には学校に出てきてほしい。

 その為にも、まずは外に出てきてもらうのだ。そろそろ直接顔を合わせたい。


『ありがとう、黒木と会う約束をしてみる。』

『おうマジか。頑張れよ』


 それからすぐに、黒木にメッセージを送る。


『今度の土曜、外で遊ばないか?』


 既読が付く。

 返事は来ない。

 前にもこんなことがあったけど、今日はあの時とは違う。俺も多少、黒木のことがわかってきたからだ。

 このくらいのことで心を閉ざしたりするやつではない。恐らく、悩んでいる。

 だから俺は、気長に返信を待った。

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