表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4.過去

 さ~て今日も今日とて黒木にお届け物だ。もちろん先生から預かったものであり、友基の手は借りちゃいない。

 黒木とLIMEを交換してから一週間、不思議と気分がいい。黒木宅へ向かう足取りも自然と軽くなる。

 さあ黒木の家(と、隣の自宅)が見えてきた。今なら届け物も全然ウェルカム、文句の一つも浮かばない。


「到着、っと……おや?」


 黒木の家の前に、見知らぬ人物がいた。

 他校の制服を着た、俺と同じくらいの歳の女子高生。誰かを待っているようなそぶりを見せる彼女は、俺に気がつくと。


「えっと、あん子の、お友達……ですか?」


 そう尋ねた。

 う、うぅむ…………俺は黒木の友達、と言ってもいいのだろうか。LIMEでのやりとりこそすれ、声を聞いたのはあの日の一回きりで、LIMEで通話を試みても『やっぱりまだハードルが高い』と断られるし、顔に至っては一度も見たことがない。そんな友達がいるのだろうか……。インターネットの普及により友人関係にも多様性が生まれたとはいえ、さすがに今の関係を「友達」と呼称するのは些か抵抗がある。しかしここでノーと答えるのもそれはそれで寂しいものがある…………。


「うーん、答えは保留にさせてくれ」

「えっ!? ほ、保留!?」


 俺の返答に、彼女は目を丸くして驚く。だって仕方ないじゃん、よくわかんないんだもん。


「で、でも! クラスメイトではあるんだね?」

「ああそうだ。席も隣だし家も隣、友達かどうかはわからないが距離でいえば一番近い」


 さらに言えば、クラス、どころか学校の中じゃ一番黒木に詳しい。これだけは自信を持って言える。

 しかしこの子は、黒木とどういう関係なのだろうか。「あん子」って下の名前で呼んでいるし……。


「私はね、あん子の同級生だったの。中学時代のね」


 納得。黒木にも中学時代があったし、そこには俺の知らない黒木と、その友人がいたのだ。それが、彼女。


「はじめまして、黒木の旧友さん。俺は和泉 聖也」

「あはは、まだ名乗ってなかったね。私は沢渡(さわたり) 朋佳(ともか)。よろしく」


 沢渡が差し出した手を握り、上下に振る。すると沢渡もすぐ振り返してきた。気が合うかもしれない。


「それで、沢渡はここで何をしてたんだ?」

「あん子を待ってたんだよ。ちょっと、話したいことがあってね」


 話したいことというのも気になるけど、まずは。


「黒木は学校には来てないんだよ。だから待たなくとも、ここにいる」

「…………そっか、まだ……」


 途端に、沢渡の顔は陰りを見せた。まるで嫌な予感が的中したような。

 「まだ」というと、黒木は中学時代から登校を拒否していたのだろうか。


「うん、まあね。それについて、今日は話したかったんだけど……また今度にしようかな」

「ああ待ってくれ、少し、話をしないか」

「え?」


 俺が引き止めると、沢渡は不思議そうな顔をした。たしかに、黒木という共通点があるとはいえ学校も違う、沢渡からすれば俺と話す理由はないだろう。

 しかし俺には理由がある。黒木の中学時代のことが気になるのだ。思い出話も、登校拒否の原因も。


「……わかった、話すよ。懺悔する」


 懺悔。なにやら不穏な雰囲気を感じるけど、ひとまず立ち話もなんだからと、俺は沢渡を家に招いた。もちろんプリントを届けた後で。


「わ〜男子の部屋って感じ〜」


 不穏な雰囲気はどこいった? 沢渡は俺の部屋を見回してそんな感想を述べた。


「ベッドの下見ていい? あと本棚と引き出しの奥も」

「距離の詰め方バグってるのかよ! あとダメだよ!」


 いきなりトレジャーハントをしようとする沢渡をなんとか止めて、話を始める。


「いや〜ごめんごめん、いざ話すってなったら緊張しちゃって。……えっと、どこから話そうかな」

「俺は中学時代の黒木が気になるな。どんなやつだったんだ?」

「昔のあん子かあ。……可愛かったよ、ほんとにね。ちっちゃくて、元気いっぱいで。成績も良くってさ、一緒に勉強したりしてたんだ。それにテニス部のエースで——」


 沢渡は楽しそうに、懐かしむようにして黒木のことを話した。その様子を見れば、黒木のことが本当に大好きだったのだと一目でわかる。

 なんとなくだけど、黒木も沢渡のことが好きだったんじゃないかと思う。二人は親友だった、そんな気がした。


「——ていうことがあって……あれ? 今どのくらい話してたっけ?」

「三十分くらいノンストップだったよ。おかげで黒木への愛は伝わった」

「は、恥ずかしい……」


 なにも恥ずかしがることじゃないんだけどなあ。というかそんなにエピソードが出てくる友達がいて羨ましい。今度友基を連れ回してみようか。

 しかし彼女の話を聞くと、どうしても今の黒木に繋がるようには思えない。

 快活で、勉強もできて、スポーツもできる。そんな人物がなぜ登校拒否を続けている?


「なんでもできたから、だったのかもしれない……」

「え?」

「あん子が学校に来なくなった理由。も、もちろんあん子が悪いだなんていう気はないよ! ……でも、原因の一つでは、あったのかなって……」


 沢渡は目に涙を浮かべていた。

 それから、心底苦しそうに、悔しそうにして。


「あん子はね、いじめられたの」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ