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3.期待

「で、黒木はどうだった?」

「なんか思ってたより強気だった。顔は見えなかったけどな」


 また翌日、俺は学校で友基と話していた。話の内容は黒木についてだ。


「ってなんだ、本当に会えたのかよ。しかし強気なあ……想像がつかない。てっきり病弱なご令嬢みたいな奴かと思ってたんだが」

「まあ、俺もそうだったよ」


 声こそあどけなさを感じさせるが、その物言いは男っぽい。不躾とか無礼とか、そういうのとは違うけど、決して礼儀正しいわけでもない。

 ま、最後の言葉は嬉しかったが。


「今日も黒木の家行くのか? またプリント用意してやってもいいぞ」

「いやいや、昨日で反応は貰えたんだ。無理して行く程じゃあないさ」

「了解した」


 それに。

 と、連絡袋に入った一枚のメモ用紙を見て、俺はモノローグ的に、心の中で呟いた。

 メモには「声くらい聞かせてくれ。」と、無駄に綺麗な字で書いてある。一昨日、俺が渡したそれだ。

 それはいい、問題はその裏。小さく書かれた、数字とアルファベットの文字列。その上には、これまた小さく「LIMEのID」と。


 LIME、それは無料通話アプリ(チャットも可)。つまりは連絡手段を手に入れた。


 ……まあ何に使えばいいのだ、という気もするが。

 一昨日このメモを渡したのは文句を言いたかったからで、そこまで関わるつもりもなかったし。別に今さら黒木を学校に引っ張り出そうだなんて気もないし。

 だから、このIDは、少し持て余す。


(一応、メッセージ送ってみるか)


 とはいえ腐らすのももったいない。俺は昼休みを使って、黒木にメッセージを送ることにした。

 黒木のアカウントは「あんこ」という名前で、小豆色のアイコン。思いのほか可愛らしい雰囲気だった。


(第一声は……何にすりゃいいんだ?)


 俺と黒木ってそもそもどういう関係なんだ? まずはそこからだ。

 同級生? そりゃ所属としちゃあそうだが、この一か月での交流は昨日の一回のみ。なら赤の他人か? そうだなそれが一番近い。……だがこれは少し悲しいものがある、仕方ないけど。

 じゃあ、そうだな。


『こんにちは。

 和泉 聖也です。

 昨日は失礼しました。』


 うん、めちゃくちゃよそよそしい。しかし正解とは言えなくとも、不正解でもないだろう。これで黒木の出方を見るわけだ。黒木の返答によってこっちも対応を変える。

 しばらくして、既読が付き。


『よそよそしいな 逆に気持ち悪い』


 あんまりな返信がきた。


『こっちだって距離感測ってるんだよ。』

『急に正直だな・・・そのへんはテキトーでいい』


 テキトーって……。

 というか黒木のやつ、登校拒否決め込んでるんだから、てっきり人との関わりを断ちたがってるものだと思っていたのだが、そうでもないのか? 俺のメモにも対応したし、今も俺とチャットをしている。

 少し、気になるな。


『じゃあ聞くが、なんで俺とLIMEを交換したんだ?

 人と関わりたくないんだと思ってたんだけど、違うのか?』


 既読が付く。


 しかし、返信は——


「間違えた、か……」


 何もなし。

 その頃、チャイムが昼休みの終わりを伝えた。


 それから放課後まで、家に帰ってからも、どうにもモヤっとした気持ち悪さを抱えていた。

 別に、仲のいい友人でもない。壊れるような関係を築いていたわけじゃない。だというのに、やけに辛い。

 これからもまた黒木とは、ただの同級生で、家が近いからと届け物を任されるだけの関係に戻るのだろうか。そんな、関係とも言えないような関係に。


 せっかく友達になれそうだったってのに……。


(ああー俺のバカ野郎! なにが「じゃあ聞くが」だ! 真っ先に触れることじゃねえだろうがそんなことはよ! 黒木の「テキトーでいい」を真に受けやがって、砕けた風でも地雷を踏みぬいたらアウトに決まってんじゃねえか!!)


 自分をぶん殴る勢いで自責する。

 それに、一番自分に腹が立つのは……。


(自分の都合ばっか並べやがって、傷ついてんのは黒木だろうが)


 俺は一発、自分の頬を殴った。


 ブー、ブー。


 自罰的に自傷行為をしていると、スマホが何かを通知した。

 なんだってんだいったい、YourTubeとかだったら悪いが今は……。


『あんこ

 今家か?』

「ええっ!?」


 それは、黒木からのメッセージだった。もう諦めかけていた黒木との繋がりに、俺は慌てて飛びついた。

 今度こそは、慎重に。


『はい、家にいます。』

『なんでまたよそよそしくなってんだよ・・・

 じゃなくて 昼は悪かったな 返信できなくて

 昼休みが終わったと思って返信しづらかったんだ

 なんかお前 律儀に授業中でも返してきそうだから』


 ……じゃあなんだ、黒木は別に怒って返信しなかったわけじゃなくて、俺を気遣っていただけ……?


『正直どう答えたらいいか悩んでたってのもあるが・・・』

『誠に申し訳ございませんでした。』


 反省しております。


『まーお前の言う通り 人と関わるつもりはなかったよ

『こっちから関わるのもだけど 誰かからこっちに関わってくることもないようにした 先生だってな

『でもお前はそれを通り抜けてきやがった

『これでも届けられたプリントは目を通してるし 宿題はやってんだ 親の心配を減らすって意味も込めてな だからお前のメモが防げなかった

『和泉 お前だけなんだよ 私と連絡取れるの

『で そんなやつが連絡を取ってきた』


 黒木が連ねるメッセージを、俺はただ眺めていた。


『だから 少し期待したんだろ たぶん』


 若干の間を開けて送られたメッセージは、どこか他人事っぽいというか、伝聞調で。自分でもわからないとでも言いたげなそれに、俺はくすりと笑ってしまった。

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