勘違い
今年最後の投稿になります
セシルside
「じゃあ、母さん、おばさん行ってくるよ!」
「しっかりやんなさいよ!」
「キアラをよろしくね」
あの日から俺は父さんに稽古をつけてもらい、修行に明け暮れた日々をおくった。
実力もこの村ではもう敵なしだし、父さんにも勝てるようになった
今日俺はキアラを迎えにいくんだ
そう思ってからの俺は早かった。すぐに村をでて、キアラがいる王都に走った。
俺が王都につくと何やら表通りに人だかりが出来ていた。
なんだろうと思い近づいてみると
「勇者様!!」 「聖女様!!」
「剣聖様!!」「賢者様!!」
「精霊使い様!!」
全員がそう叫んでいて、その先を見て俺は目を疑った。
「え、」
キアラが勇者と思われる男に肩を抱かれ顔を赤らめながら、周りの人に手を振っていたんだ。
「キアラ?誰だよ、そいつ」
放心状態の俺にさらに耳を疑う話が聞こえてきた
「ねぇ、あの噂聞いた?」
「聞いた聞いた。聖女様と勇者様が結婚するってやつでしょう?」
「あの二人ならお似合いよね〜」
「本当」
「そ、そんな、そんな...」
そうか、お前はとっくに俺なんかどうでも良くなってたんだな。
そうだよな。まともな役職に付けなかった俺なんか...
バカみたいだな、俺お前にまだ好意を持たれてると勘違いして、突っ走ってさ。
目を瞑るとキアラとの思い出が頭の中に浮かび上がってくる
「セシル!」
幼い頃、俺の名前を呼びながらこちらに走ってくる
キアラ
そう言えばお前が行方不明になった時もあったな。その時、お前の事死ぬほど心配して、森の中とか父ちゃんに無理言って一緒に探したな
お前が見つかったって聞いた時、とっても嬉しくて思わず抱きついてしまって、でもお前はそんな俺を抱きとめてくれて
その後も、泣いてる俺の頭をずっと撫で続けてくれたよな
いや、やめよう。もう過去に浸るのは
もうキアラはあの頃のキアラじゃないんだから
そう思い村に帰ろうとした俺の耳にある話が入ってきた
「勇者が魅了の魔法使えるって噂マジなのかな?」
「知らねぇよ。確かあれだろう?前の勇者が魅了の魔法持ってて女を好き放題にしたってやつだろう?」
「そうそう。国の連中が民の反感を防ぐためにその事実を全て揉み消したっていう」
「どうだろうな。でも、あんだけべっぴんさんばっかだし、魅了が使えるならさぞいい思いをしてるんだろうよ」
「へへ、ちげぇねぇ」
その話を聞いて俺はまたも固まってしまった
魅了?
まさかしてキアラは勇者に魅了をかけられて無理やり結婚させられそうになっているのではないのか?
そうだったのか。あのやろう、キアラを魅了したのか
許さねぇ
俺はそのまま勇者に攻撃しそうになるが、一歩手前で踏みとどまった。
なぜかと言うと
「ちょっと待った」
俺の持っている剣が俺に喋りかけてきた
こいつは聖剣ライネル
俺がここにくる途中の村の骨董品屋で見つけた物だ。なんでも、この剣は人を選ぶらしく中々買い手がつかなくて困っている。だから、その剣に選ばれたら格安で売ってやると店の主人に言われて俺が持ってみたところ
「ほぉ、俺を扱うにふさわしい剣士が久々に現れたな。お前に俺を扱うことを許してやろう」
いきなり喋りだして俺を選んだって訳だ
それ以降こいつは何かと俺にアドバイトをくれる。
「なんだよ」
「今攻撃しても魅了をかけられた者たちによって応戦されるだけだ。ならば、魅了を解除する方法を探し、見つけてからの方が得策ではないか?それに、もしいま勇者を斬り伏せたとしたらお前は国から追われることになるんだぞ」
ライネルのもっともな意見に俺は怒りを飲み込んだ
「分かった。なら今すぐ探しにいくぞ」
俺はその場を後にしキアラを救うべく動きだした
待っていてくれよ、キアラ。俺は絶対にお前を救ってやるからな。
キアラ達side
キアラ達は一つの部屋に集められていました
「これより皆様には魔王討伐の旅に向かっていた出すのですがその時、沢山の国民達が見に来ます。その際に勇者様と聖女様には仲睦まじい関係に見えるように芝居をしていただきたいのです。」
「なんで、キアラがそんなことしなきゃならないの?」
アイシャが発言した騎士に向かって少し睨みながら質問しました。
「はい、この国では二つの大きな派閥がございまして、一つが勇者様派、もう一つが聖女様派でございます。」
「それで?」
「それぞれの派閥の代表者である貴族達があることから仲違いをしてしまい、その派閥同士での争いが起きそうになっているのです。そこで、その派閥に信仰されている勇者様と聖女様が仲睦まじい関係だとわかればお互い下手に攻撃はできないだろうと言う考えです」
「あの、具体的には何をすれば?」
「お互いに肩を組んで民達に手を振っていただからば大丈夫です。それだけで、連中もそう思うはずなので」
「分かりました!そう言う事なら協力しましょう!」
騎士の話を聞いてキアラの肩を抱けると分かった勇者である裕樹はその話に乗り気なようで元気よく返事をしました。
「キアラ様はどうでしょう?」
騎士はそう言いキアラに目線を移します。
「キアラ、別に無理してやる必要ないんだからね?」
アイシャがそう言いキアラを心配します。アルジェとアーリアも心配そうにキアラを見つめています。
逆に裕樹はえっ?と言う顔になっていました。
「いえ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。別に肩を抱かれるだけなんですよね?それならお受けいたします」
「おぉ、そうですか!ありがとうございます!」
「ほら、キアラもっとひっつかないと」
「えっと、あのこれ以上はいいかと」
案の定、キアラ達の乗った馬車の通り皆には国民達が沢山いました。
裕樹は騎士に言われた通りにキアラの肩を抱き手を振っています。
キアラも同じように手を振っていますが、裕樹はもっとキアラを堪能したいと、更に近づけようとします。
流石にとキアラは抵抗していますが、国民の前なのであまり強くは抵抗できません。
その後ろでは、アイシャ、アルジェ、アーリアが裕樹を睨みつけていました。
しかし、裕樹はそれに気づく事なくキアラの肩をより強く抱きます。
そしてキアラにはもう一つ別の心配もありました
それは
(キスマーク見られてませんよね?ちゃんとチョーカーで隠れですよね?)
ジャンヌにつけられたキスマークのことでした。
このキスマークは先日に付けられた物なのですが、首筋とは別にお腹と太ももにも付けられているのです。
ジャンヌがどうせ隠れるのだし、こうした方が加護も強くなるからとキアラのお腹と太ももにもキスマークを付けたのです。
胸にも付けられそうになったのですが、なんとかそれは死守しました。
そういう理由でキアラは見られるのではないかという心配。
そして、単純にこれだけの人に他人に肩を抱かれた状態を見られていると言うので顔を赤くさせていました。
「酷い目にあいました...」
なんとか、国の門を出たキアラ達は馬車の中でぐったりしていました。一人を除いて
「ハハハ、楽しかったね。やっぱりみんなに祝福されるのは嬉しいな」
裕樹はキアラの肩を抱けたのがよっぽど嬉しいのかとてもテンションが高くなっていました。
一方でキアラは、一人沈んでいました。
そのキアラを元気付けようと三人が慰めます。
「大丈夫?だから無理するなって言ったのに」
「そうだぞ!キアラが無理する必要はなかったのだぞ!」
「元気出してお姉ちゃん」
「はい...」
「はぁ、仕方ないわね」
アイシャはそう言うとキアラの隣に座り
ぽすん
キアラを自分の方向に倒し、キアラの頭を自分の膝の上に下ろしました。いわゆる膝枕です
「えっと、アイシャ?これは?」
「アンタ結構疲れてそうだから寝ておきなさい」
「でも、迷惑では...」
「アンタの辛気臭い顔見てる方が迷惑よ。さっさと寝ちゃいなさい」
「そうですか、では、すいませんがお願いします」
「おやすみ」
そう言いキアラはすぐに寝てしまいました。
皆さん良いお年を!!!