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01.ネットワークとセキュリティと異世界転生始めました

俺の名前は音嶋恵介(おとしまけいすけ)


今年で33歳になる。


職業はしがないエンジニア。


持っている資格はネットワークスペシャリストと情報処理安全確保支援士。


ネットワークとセキュリティのことなら何でも任せろ!


―と、胸を張りたいところだが、資格自体は取得したものの、資格試験に向けて勉強していた頃に比べると若干、知識が低下してきたことは否めない。


業務で使う場面が少ないせいだ。


「……誰に向かって言い訳してるんだか…」


出勤途中の電車で揺られながら、「ハンッ」と息を吐き捨てるように自嘲気味に笑う。


吐き捨てるような鼻息に反応したのか、吊革につかまる俺の正面に座っているおっさんが、じろっと俺を見上げる。


歳は50くらいだろうか?


禿げた頭が朝日に反射して、てかてかと光っている。


尚も、おっさんがじろじろと俺の方を見てくるが気にしないことにした。


いつもの電車、いつもの仕事。


せっかく取得した資格を使うような機会も少なく、お世辞にも楽しいとは言えない職場だが、最近見つけた趣味のおかげで日々の生活は比較的充実している。


独身で彼女ナシ、毎日を無気力漫然と過ごすだけだった俺が最近見つけた趣味。


それは、いわゆる異世界転生ものの漫画や小説を読むことだ。


今でこそ普通のサラリーマンだが、学生時代をゲームや漫画で過ごした元オタクの俺としては異世界を舞台として綴られる剣や魔法の話がすんなりと体になじんだ。


つまらない仕事に押しつぶされそうな現実を忘れ、ファンタジーな世界観にのめりこむ――。そんな解放感がたまらない。


異世界転生ものの存在を知ってからは、スマホの漫画アプリやインターネットで、これまでに公開されているものを探しては読み漁っていたが、俺が見つけたものは全部最新話まで読み進めてしまった。更新されるのを待つしかない。


「また新しいの見つけるかぁ…」


ボソッと独り言がこぼれた。


正面のおっさんが、またじろじろと俺を見てくる。


ちょっと反応しすぎじゃないか?


俺の動作に過剰に反応するおっさんと目が合いそうになるのが嫌でそっと目を閉じる。


(次はどんなのがいいだろう……転生して無双…いや、あえて弱卒からの成り上がりも捨てがたいな…)


そんなことを考えていたところで、電車が緩やかなカーブに差し掛かる。


右方向のカーブに逆らうように、俺の体が左に揺れる。


いわゆる慣性の法則ってやつだ。


そんな、いつもの電車のいつものカーブに身を任せて――


ぐわんっ


いつもとは違う大きな揺れが起こった。


と、同時に完全に慣性に身を任せていた俺の体も大きく揺れた。


進行方向に対して左を向いて立っていた俺は、大きな揺れととともに、顔面から思いっきり窓ガラスに突っ込んだ。




―-はずだった。


顔面から突っ込んだ割には、大して痛くもない。


むしろ若干柔らかい。


…柔らかい?


おそるおそる目を開けると、目の前には大きな二つの乳房があった。


「何だ、ただの巨乳か…」


ホッ、と胸を撫で下ろす。


いや、待て、俺の目の前に座ってたのは禿げたおっさんだったはずだ。


おっさんがいつ巨乳の女の子と入れ替わったんだ?


どうやら女の子は気絶しているようだが、俺以外の乗客はどうなった?


慌てて辺りを見渡すが、目に映るのは木と草、一面の緑。まるで森の中にでもいるようだ。


俺は直感した。




どうやら、新作の異世界転生の主人公は



ってことか。

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