9.遊園地デート(前編)
今回は、少しホラー要素があります。苦手な方は気を付けてください。
GW初日の朝。優作は今日から三日間の間仕事が休みになる。
「優作」
「ん? なんだい?」
「今日は、優作の実家に帰らなくていいの?」
「うん。それは明日からかな」
優作の実家には明日帰り、明後日にまた戻ってくる予定だ。
「なら、今日は何もない訳ね」
「そうだね。うーん……」
折角のGWなのになにもしないのはもったいないと思う二人。そこで、優作はひらめく。
「そうだ! 久しぶりにデートしようか!」
「……!」
「どう?」
「し、仕方ないわね……。いいわよ」
そう言いながらも、燐花の口元は少し緩んでいた。
「それじゃあ決まりだね!」
「ええ。でもどこに行くの?」
「定番だけど、遊園地なんてどうだい?」
「いいわよ。特に異論はないわ」
「じゃそうしようか。……フフッ、今から楽しみだよ」
「ふんっ……。わ、私は別に……」
もちろん、こう言いながら燐花も楽しみだったことは言うまでもない。
――――――――――――――
最寄りの遊園地に到着し、デートが始まる。
「さすがに人がいっぱいね……」
「そうだね。はぐれないように手繋ごっか」
そう言うと、優作は燐花の手をとる。
「っ!……///」
「……どうしたの? 嫌なら離そうか?」
「ゆ、優作のいじわる……///」
プイッと視線をそらし、口を尖らせながら言う燐花。
「フフッ、ごめんね。少しからかってみただけだよ」
「バ、バカ……」
こうして手を繋いで遊園地内を歩く二人。
「最初はどのアトラクションにする? 燐花」
「どこでもいいわよ」
「う~ん……」
優作は辺りを見回す。そこで目に入ったのは……
「お化け屋敷でも行ってみる?」
「も、もう、私そういうの苦手だって知ってるじゃない……」
「そうだね。じゃあ、行かない?」
「……べ、別に行ってもいいわ」
優作は、燐花がお化けを苦手としていることは知っていたが、嫌いではないことも知っていた。
―――――――――――――
二人はお化け屋敷に入る。
ここの遊園地のお化け屋敷は、日本有数の恐ろしさを誇っているようで、外見、演出ともにリアルであった。
「う、暗い……」
「大丈夫、暗くても手を繋いでるからはぐれないし、全部ホントの幽霊じゃないから怖くないよ」
「そ、そうね」
燐花は、優作の言葉で少し恐怖が薄れ、ほんの少しだが警戒を緩めた。
――――――――そのとき。
ガシッ!!
横の壁から突然、人の手が伸びてきて、燐花の足を掴んでいた。
「きゃあ!!??」
「おっと」
いきなり足を掴まれて驚愕し、慌てて逃げるように優作に抱きつく燐花と、それを受け止める優作。
「い、今、手が……!」
「燐花ちゃん、大丈夫だから落ち着いて?」
「う、うう……」
燐花はまだ優作の腕に抱きついていたが、そのまま先へ進む。
すると、分かれ道に遭遇する。
「右か左か、どっちに行く?」
「そ、そんなの適当でいいわ。早く出口を探しましょう」
「じゃあ適当に左に行こうか」
二人は左に曲がる。進んでいくと、だんだん暗さが濃くなってくる。すると……。
グアァァァ……! ヴゥァァァ……!
「ひっ……!」
呻き声のような音がした。その瞬間、燐花は小さく声を上げる。
その音は、進めば進むほど大きくなっていった。燐花はそのたびに優作の腕を抱く力を強くする。
「もうやだぁ……! ゆうさく、早くここから出たいよぉ……!」
「うん、そうだね。俺は燐花から離れないから、取り敢えず今は落ち着いて」
「うう……。絶対離さないでね……?」
「うん。絶対離さないよ(可愛いな……)」
優作は燐花を宥めながら先へ歩いていく。すると、道が途絶え、真っ暗な壁だけが前を立ちはだかる。
「行き止まり?」
優作が不思議に思っていると、突然パッと壁に光が当てられる。
そこには……。
グロテスクなゾンビの顔が、壁いっぱいに敷き詰められていた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「うわ……!」
ある程度耐性のある優作でも、恐怖を感じた。それほど恐ろしく、リアルな光景だった。
そして燐花は、ここまで来た道を走って逃げていってしまう。
「ちょっと燐花、待って! 走ると危ないよ!」
全力で逃げる燐花と、それを全力で追いかける優作。しばらくして、優作がやっと燐花に追いつく。
「捕まえた! 燐花、走るのは危ないからやめよう!」
「うぅ……。だってぇ……! 怖すぎるわよここ……」
燐花が涙目で取り乱していると、
ぎゅっ、と優作は、燐花を抱きしめた。
「っ………!」
「……大丈夫、俺がついてるから。だから走るのは、ダメだよ? 危ないし、はぐれちゃうから」
「……う、うん」
優作に抱きしめられ、すこし冷静さを取り戻す燐花。
「もう大丈夫だね?」
「うん、ありがとう優作……」
燐花が落ち着いたのを見て、優作はゆっくり腕を解放させる。そして再度、先へ進む二人。
「ん? あれは……?」
「女の子かな?」
二人は、女の子が何かを探すように四つん這いになっているのをみつける。
「声をかけてみようか」
「そうね」
二人はその女の子の下へ近づく。そして優作が話しかけた。
「ない、ない……」
「ねえ、君。何か落としたのかい?」
女の子は、二人の方をみないまま答える。
「うん……」
「何を落としたの? 探すの手伝うわよ?」
「探してくれるの?」
「ええ」
「わーい! ありがとー!」
「それで、なにを落としたの?」
「うん、それはね……」
その女の子は、やっと初めて振り返った……。
「目玉ヲ、オトシチャッタノ」
その女の子には、眼球がついていなかった。
――――――――――――――
「し、ショックで死ぬかと思ったわ……」
「さ、さすがにあれは、俺も怖かった……」
あの後、あまりの恐怖で全力で出口に向かって走り、今に至る二人だった。
「当分、お化け屋敷は行かないようにしようか……」
「そうね……」
燐花は本当にげんなりしていたが、優作は、燐花の可愛い所をたくさん見られたので密かに満足していた。