4.燐花の友人訪問 (前編)
優作が帰宅した後の夜。二人ともそろそろ就寝しようとしていた時だった。
「あ、そういえば優作」
「なんだい?」
「確か明日休みだったわよね?」
「うん、そうだね。どうかした?」
「私の友達がうちに来る」
「ああ、分かった。俺は出掛けていればいいかい?」
「ううん、優作と会ってみたいって言ってた」
「え、俺に? 別にかまわないけど」
優作はなんでだろうと疑問に思う。なぜなら基本的に、燐花の友達とは面識がないからだ。
まあ、仲が良い友達の夫のこととなると、やはり気になるものなのかと勝手に解釈する。
「でも珍しいね。俺に燐花ちゃんの友達を会わせるなんて」
「ふん、だってどうしてもって言うから……」
「?」
ふてくされたように言う燐花を見て、不思議に思う優作。
今まで燐花は、友達に「夫に会ってみたい」と言われることは何度かあったが断っていた。
他の女と優作を関わらせるのは、あまり良いとは思ってないからだ。
優作は顔立ちが良く人当たりもよいので、ハッキリ言うとモテる。もしもの事があったら……。と、心配しているのだ。
「その燐花の友人さんは、何時くらいに来るんだい?」
「お昼過ぎくらい」
「分かったよ。じゃあ、また明日ね。おやすみ」
「おやすみ。………明日その子に何かしたら、八つ裂きにするから」
「分かっております」
「フンッ……」
燐花は若干の不安を抱えたまま、眠りについた。
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次の日。
ピンポーン
インターホンが鳴る。
燐花が玄関の扉を開くと、女性が立っていた。今日訪ねてくる予定の、友人である。
「よっすリンリン! 遊びに来たよー!」
「来たわね綾香。どうぞ上がって」
綾香は『おじゃましまーす!』と明るく家に上がる。
「旦那さんはー?」
「リビングにいるわ」
「おー! 早速行こうではないか!」
「ちょ、ちょっとまって」
落ち着きのない様子でリビングに入る綾香の後を追う燐花。二人がリビングに入ると、そこでは優作がお茶を用意して待っていた。
「あなたがリンリンの?」
「初めまして。燐花の夫の優作です。いつも燐花がお世話になっています」
「おぉーー! あたし綾香! 上崎綾香です! カッコいいね、優作さん!」
「いえいえ、そうでもないですよ。上崎さんもお綺麗で」
「! そ、そう言われるのは嬉しいけど……」
二人が若干いい雰囲気になった時。
「ゆ~う~さ~く~……?」
「はっ!?」
優作の背後には、黒いオーラを纏った燐花が、鬼の形相で優作を睨んでいた。
「そんなに綾香が気にいったの?」
「い、いやいや、そういうわけでは……!」
「ひどい! 私とは遊びだったのね……!」
「上崎さんもノらないでください! てか初対面ですよね!?」
「浮気……したの……?(ギロッ)」
「だから初対面だって!」
機嫌を損ねた燐花と慌てる優作、それにわざとノる綾香。このあと優作は、なんとかして燐花を宥めた。
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三人リビングのテーブルの椅子に座り、お茶を飲みながら会話タイムとなる。
「早速だけど、優作さんってリンリンのどこが好きなのー?」
「ちょ、ちょっと綾香?」
「ん? リンリンとは、燐花のことですか?」
「うん、そだよ!」
「へえ、そんな渾名があったんですね」
「やめてって言ってるのに、綾香が呼ぶのやめないのよ……」
興味深そうに頷く優作と、少し恥ずかしがる燐花。
「良いじゃないか。俺はいい渾名だと思うけどな、リンリン?」
「死ねば?」
「あまりの対応の違いに涙が出そうだよ」
優作が涙をこらえていると、綾香が前に出て急かすように言う。
「ねーねー、どこが好きなのっ? やっぱ可愛いから?」
「そうですね。もちろんそれもありますけど……」
暫しの時間考え込む優作。
「普段はクールな所が多いけど、心の中ではちゃんと俺を心配してくれたり、たまに甘えたがったり。そういう燐花の優しさといじらしさが、俺は好きです」
もちろん、それ以外もありますけどね、と優作は付け足す。すると……。
「~~~っ!?」
「お~……!」
女子は二人共、顔を赤くしていた。特に燐花は真っ赤になって俯いてしまう。
「あはは、なかなかおアツいですね~!」
「はは、少し照れ臭いですね」
「これはリンリン、嬉し過ぎてドッキドキだね!」
「べ、別に嬉しくなんかにゃいわ……」
「あ、リンリン噛んだ~! 動揺しすぎ~! あははっ!」
「う、うるさいっ!!」
そういう燐花は、耳まで赤くなっていた。