22.幼馴染の来訪(前編)
「というわけで、最近近所に引っ越してきた友人を連れてきたよ。小学校から高校まで一緒だった幼馴染だ」
「そう……」
燐花の嫌な予感は的中し、先般の不審な男が優作の隣に立っていた。
「またお会いしましたね、美しいレディ。青景雅貴と申します。以後お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします。長谷川燐花です」
上流貴族のような所作で胸に手を当て、優雅にお辞儀をしながら挨拶をする雅貴。燐花は身に覚えのあるキザさに背筋がヒヤッとした。
「この綺麗な女性が例の奥様なのですか。優作も隅に置けませんねえ」
「ふふ、そうだろう。俺の自慢の妻だ」
「堂々と言われると恥ずかしいからやめて……」
二人の男に立て続けに褒められて落ち着かなくなり、赤面する燐花。それを見た雅貴はキラッと目を輝かせた。
「ああ、その恥じらいの表情、リアルにしかない本物感が素晴らしい! 気持ちが直に伝わり胸が熱くなる!」
「え、ええ? この人、急にどうしたの……?」
「早速良いものを見せてもらいました。ありがとうございます」
「いや、何でお礼を言われてるのか全く見当がつかないんですけど。……優作の友達って変わっている人しかいないのかしら」
「あー、変わってるってのは否定しない。これでも根は良いヤツなんだ、仲良くしてくれると嬉しい」
「はあ、まあ良いけど。とりあえず、座ってお話しましょう。今お茶を入れてきますね」
「ご配慮ありがとうございます、燐花さん」
雅貴をリビングまで案内した後、燐花が三人分のコップをテーブルに置き、それを囲むように各々が座った。
「で、何で急にこっちに引っ越してきたんだい、雅貴」
「そういえばまだ言っていませんでしたか。大した理由ではないですが、言うなれば……インスピレーションを求めに来た、といったところでしょうか」
「へ?」
突拍子のない理由に、燐花は首を傾げた。
「失礼、突然このようなことを言われても困惑しますよね。実は僕、漫画家を目指して修行中なんですよ」
「あ、そうだったんですか。それは素敵な夢ですね」
「ありがとうございます。今までは地元に根を張り、静かに暮らしていました。ただ漫画家志望として、このまま同じ場所にとどまっていては進化はないと思い至りまして。ここは地元より人も施設も段違いに多い。都会に身を置いて、未知の体験に触れる機会を増やそうと思ったのです」
「へえ、そういうことだったのか。大学生の頃から漫画家になりたいって言ってたよね。まだちゃんと目指し続けているんだね」
「未だ書籍化は成し遂げられていませんがね」
「それでも夢を叶えるために、向上心を持って行動しているのは素晴らしいと思います」
「いえいえ、そこまで褒められるようなことでもありませんよ」
先ほどまで雅貴をただの怪しい青年だと思っていた燐花だったが、少し見直したように称賛する。
「僕の話より、ぜひお二人の話を聞きたいですね! どのような経緯で結婚まで至ったのか、とても興味がある!」
「「え」」
急にスポットライトがあたり、長谷川夫婦がそろって口をぽかんと開けた。
「学生時代の優作は、恋愛事に関してはまるで疎く、恋愛漫画の主人公のように鈍感な男でした。それ故に女性との関係が全く進展せず、ついに恋愛経験ゼロで高校を卒業してしまいました」
「おい雅貴! 燐花の前でなんて恥ずかしい過去を暴露してくれちゃってんの!?」
「そんな伝説の超朴念仁とも呼ばれた優作をどのようにしてオトしたのか、ぜひ教えていただきたい!」
「待って! 俺そんな不名誉なあだ名つけられてたの!?」
「おや、知らなかったのですね」
初めて知った驚愕の事実に優作はガーンとうなだれた。
「優作、恋愛経験ゼロだったんだ」
「……ああ、そうだよ。恥ずかしいから燐花には言ってなかったけどね」
「ふふっ。私が初めての女、なんだ……えへへ」
自分が初めて優作の特別な存在になれたことを知って、何だか嬉しくなる燐花。客人の前だとというのに口元の緩みが全く抑えられないのであった。
それに気づいた雅貴は、フッと優しく微笑んだ。
「夫婦関係は良好のようですね。友人として、安心しましたよ」
「そうだね。恋愛経験ゼロなりに、今大切な人を幸せするために真摯に向き合っているつもりだよ」
「そういう真面目なところは、昔から変わらないですね。それはともかく、二人の馴れ初めについて教えてもらうまで、今日は帰りませんからね!」
「う……そこまで聞きたいのかい?」
「人の体験を聞くことで、知見を得られてインスピレーションがわくことがあるかもしれませんからね」
メガネを手でクイッと直しながら言う雅貴に、長谷川夫婦は苦笑した。
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※以降はカクヨムで連載します。




