21.引っ越してきた怪しい青年
「ふう。これで一通り、掃除は終わったわ」
そう言って燐花は掃除機のスイッチを切り、ソファーに座って一息つく。ふと時計を見ると、午前10時過ぎを差していた。
「うーん、買い物に行くにはまだ早い時間だわ。お昼までゆっくりしようかしら」
んーーっと背伸びをしてからソファーに寝転がって、スマホを手に取る。燐花は最近、空いた時間にしていることがあった。
「優作の口に合いそうな料理はないかしら」
そう、料理のレシピを調べることである。仕事を頑張る夫に、いろんな美味しいものを食べて幸せになってもらいたいがために、レパートリーを増やしているのだ。
専業主婦である燐花は、優作が仕事に行っている時間は基本的に家事をしているか、こうして夫や生活のために行動していることが多い。
ざっくりと普段の燐花の習慣を説明すると、週に3~4日、パートタイムで働いて生活費の足しにし、そうでないときは家事をしたり、空き時間にレシピを調べたりして、主婦としてのスキルを磨いている。理想の妻となるべく、日々自己研鑽しながら夫と生活を支えているのだ。
「あ、これ良いかも。時間あるし、早速今日作ってみようかな。えっと、材料は……」
新しい料理に挑戦するために足りない材料を買おうと、メモ用紙を用意したその時。ピンポーン、とインターホンが鳴った。
「……?」
こんな時間に客人とは珍しい、と燐花は思ったがとりあえず玄関に出てみる。
宗教勧誘かも、と思いながら玄関の扉を開けると、見知らぬ青年が立っていた。青年は燐花を見ると、姿勢良くお辞儀をする。
「お初にお目にかかります。美しいレディ」
「は、はあ。初めまして」
何だこの怪しい男は、と戸惑いながらも燐花は挨拶を返す。本当に見覚えのない顔だ。身長約175cmくらい。容姿の特徴はキューティクルな髪とメガネをかけていることぐらいか。もしかしたら不審者かも……と警戒する。
「何かうちにご用意ですか?」
「はい。このたび、この辺りに引っ越してくることになりましたので、ご挨拶に伺いました。つまらないものですが、こちらが手土産です」
「あ、そうだったんですね。ご丁寧にありがとうございます」
不審者じゃなくてよかった、と安堵する燐花。どうやら近所に引っ越してきた、普通の礼儀正しい青年だったようだ。さすがにいきなり不審者扱いはちょっと失礼だったかもしれない。
「いやー僕は運が良い。こんな綺麗な女性の近所に住めるなんて。そうだ、この後時間があれば、一緒にお茶でもどうです?」
「……!?」
油断していたところいきなりナンパされ、思わず顔を強張らせる燐花。この人、やっぱり不審者……!? と、身構える。
「なんて、冗談ですよ。驚かせてすみません。では、この辺で失礼します。今後ともよろしくお願いしますね」
「へ? あ、はい?」
そうこう考えていると、青年はスタスタと帰って行ってしまった。何だったんだあの人は。急にナンパしてきたと思ったら、名前も言わずに去って行ってしまった。
変わった人が引っ越してきたなあ、と無理やり締めくくって混乱する頭の中をごまかし、リビングに戻る燐花。レシピの続きを見ようと携帯を確認すると、優作から一通のメールが届いていた。仕事中にメールなんて珍しい、と思いながらメールを開く。
『そういえば、最近うちの近所に学生時代の友人が引っ越してきたんだ。今度うちに招待しようと思うんだけど、誘っていいかな?』
「え……!?」
メールを見た燐花は思わず声を出して驚く。まさか、さっきの不審者が優作の友達……?
一抹の不安を拭えないままだったが、燐花はしぶしぶOKを出したのだった。
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