20.酒酔い妻③
「えへへ~。絶対離さないわ、ダーリン♡」
「だ、ダーリン!? や、やっぱり相当酔ってるな……」
相変わらず優作は、酔っぱらい妻に拘束されている。彼は悩んでいた。どうやってこの状況を打破しようか、と。
「むー。どうしてぎゅーしてくれないの……? もしかして、燐花のこと嫌いになった……?」
「え……!?」
ハイテンションから一変。急にしおらしくなり、上目遣いでそう言う燐花。突然の変化だったので、優作は一瞬戸惑う。
「そ、そんな訳ないだろ! 愛してるに決まってる!」
我に帰った優作はすぐさま、燐花の言葉を否定。当然、彼は本当に燐花を愛している。この場を切り抜けるために言ったのではなく、本心からの言葉だ。
「…………ほんと?」
「当たり前だろ。今までも、そしてこれからもずっと、愛してる」
「……えへへ~、嬉しいなあ」
優作の言葉に安心したのか、にへらっと顔をほころばせる燐花。
「じゃあ……。ぎゅーして……?」
「うっ……!」
今度は両手を広げて、甘えた声でおねだりする燐花。優作は、あまりの可愛らしい妻の姿を見て、抱きしめたくなる衝動に駆られてしまう。
「……しょうがないなあ。一回だけだよ? おいで、燐花ちゃん」
「ん……♪」
嬉しそうにとことこ寄ってくる燐花を、優作は優しく抱きしめた。
「えへへ、これ好き~♪」
「それは良かったよ」
「ん、なでなでもして?」
「はいはい」
甘えん坊すぎる妻の行動に、優作は苦笑した。燐花は酔っぱらうと、甘えん坊な性格が全面に出てきてしまうのだ。
少しだけ面倒なところもあるが、これはこれで可愛い。優作はそう思った。
「ねーゆうさく」
「なんだい?」
「……燐花も、ゆうさくのこと愛してるよ」
「……うれしいな。ありがとう」
「だから……。これからも、ずっと一緒に……いようね」
「そうだね、ずっと一緒だ。……って、寝ちゃったか」
優作の胸の中で、幸せそうに寝息を立てる燐花。酒酔い妻はようやく、おとなしくなったのだった。
「やれやれ、可愛い妻だな」
そう言って優作は、そのまま燐花を持ち上げ、お姫様だっこをしてリビングのソファーまで運んだ。
――――――――――
「ん…………?」
ソファーの上で、燐花が目覚める。時計の針は、12時過ぎを指していた。
「……あら? 何で私、こんな時間にソファーで寝てるのかしら」
状況を把握するために、キョロキョロと辺りを見回す。するとテーブルの上に、ラップがかかったオムライスがあった。
「お、起きたんだ燐花ちゃん。おそよう」
「優作……。あ、そういえば私、お酒飲んじゃったんだっけ……」
少しずつ、燐花の頭が覚醒していく。お酒を飲むまでの記憶が甦る。が、それ以上は思い出せない。
「そうだね。ほんの少しだけだったみたいだけど」
「う、ごめんなさい」
「いいんだよ、わざとじゃないんだし。それより、お腹減ってるだろう? 良かったらそのオムライス食べな」
「……ありがとう」
夫の優しさを改めて感じながら、燐花は起き上がってテーブルへ向かった。
「ねえ優作。酔ってるときの私、何か変なことした……?」
椅子に座り、オムライスを食べながら訪ねる燐花。
「んー……。今回はわりとすぐ寝ちゃったし、大丈夫だったかな。何もなかったよ」
「そう、良かった……」
ほっ、と安堵する。何故かいつも、酔ってる間の記憶が無いので、こうして優作に訪ねるまで、当時の様子が分からないのだ。何もなかったことを聞いて、初めて安心できる。
「うん、いつもどおり甘えん坊だったな」
「う、やっぱりそうなるのね……。恥ずかしいわ」
そのことに関しては、記憶がなくてよかったと思う燐花だった。もし記憶があったら、恥ずかしさで悶え死んでいることだろう。
「ははっ。可愛かったなあ、今回の燐花ちゃん」
「ん、可愛いって……。もう……」
さらに恥ずかしがる燐花。だが、可愛いと言われたのは嬉しかった。
「優作は、甘えん坊な私の方が好きなの……?」
「え、そうだな……。俺は普段の、程よく甘えてくれる燐花ちゃんが一番好きかな」
「……ふふっ。何よそれ」
いつもどおりの自分が一番好きだと言われて、燐花は満足そうに微笑んだ。
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