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1 北部児童相談所へ

 「技術吏員・森山直樹。北部児童相談所勤務を命ずる」


 2001年1月16日。まだ年明けの緩やかな空気が漂う中で、福祉総務課の東山課長から異動辞令が手渡された。隣には、新たな赴任先となる、北部児童相談所の黒木次長がいる。


 森山直樹、28歳。大阪府庁に勤める福祉専門職である。世間一般には、「ケースワーカー」とも呼ばれる。阪神大震災が起こった年に大阪府庁に採用され、現在6年目。元々障がい者施設勤務希望で大阪府庁に入ったが、4年間勤めた後、本庁の福祉総務課に異動。まだ2年も経っていないのに、また異動である。


 ちょうどこの頃から児童虐待問題がクローズアップされるようになり、北部児童相談所に児童福祉司が増員されることになった。そこで「児童福祉司任用資格」を持っていた私に白羽の矢が立ったという次第である。


 黒木次長に連れられ、電車で新しい職場へ…。


 「君は事務所では一番若い職員になる。周りはベテランばっかりやから安心してええ。皆親切にいろいろ教えてくれるから」


 私にとっては異動は「晴天の霹靂」であり、ましてや児童相談所に勤めるなど、学生時代から全く想定すらしていなかった。


 「次長、そうはおっしゃいますが…」


 不安な気持ちが募るばかりであった。


 今でこそ世代交代が進み、児童相談所職員の平均年齢は大きく下がっているが、当時は20代の児童福祉司は極めて珍しく、そういう意味でもプレッシャーが大きかった。


 お昼前に北部児童相談所に到着し、山下所長をはじめ、職員の皆さんに挨拶をした。総勢20人くらいか…?確かに平均年齢が高いが、盛大な拍手で私を迎えてくれた。


 これまで一般行政職の集団の中で数少ない福祉専門職…どこか孤独感を感じていたが、「同じ穴の狢」の安心感か…緊張がほどけていくのを実感した。一から勉強…やれるだけのことはやってみよう。


 夕刻、お茶を飲もうと給湯室へ行くと、年の頃60代前半くらいか…おかっぱ頭の年配の女性職員に声をかけられた。佐倉広子さんという、非常勤の心理判定員さんである。


 「朝の挨拶、ご立派でしたねぇ…さすが本庁で勤めておられただけのことはありますわ。まだお若いと聞いてますが、森山さんお歳は?」


 「28歳になったばかりです。昔から実年齢より高く見られてばかりなのが悩みなんですが…」


 そう、身長こそ日本人の平均的な数値であるが、当時の私は少しふっくらしていて、また元来のポーカーフェイスゆえに年上に見られることが多かったのである。高校生の時は大学生に、大学生の時は社会人に…まあそんな感じである。


 「森山さん、落ち着いて見られるのはいいことです。特にこのお仕事は難しい親御さんも多いので…。あなたなら絶対大丈夫ですよ。実はうちの娘も同じ年頃で…看護師をしてるんですが、なかなか良い出会いがないらしくて…うちの娘お嫁にもらってもらおうかしら?」


 「ははは…ご冗談を…」


 その場は社交辞令的にさらっと流したが、まさかこの会話が、先行きを物語っていたとは…夢にも思わなかった。

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