14 新居の設計
2008年2月中旬。新居の仮契約を済ませ、現居を売りに出すことになった。現居の住宅ローン残は約2400万円。6年間払い続けて、250万円ほどしか減っていない。新居は建築条件付土地+自由建築である。土地の価格は決まっているが、売却目処が立たないと、建物にどれだけのお金をかけられるか計算ができない。
現居を売りに出して1ヶ月…買い手が見つかった。売却価格2750万円。仲介手数料を引いても、手元には2700万円が残ることになる。結局現居には、賃貸相場かそれよりも安い費用で6年間住めたことになる。お嬢様育ちの恭子には合わなかったが、この地域ではそこそこ評価の高い物件だったということである。我ながらうまく処理できたと思うが、それを褒めてくれる者は誰もいなかった。
早速、建物の設計に取りかかった。4人家族ゆえ4LDKの間取りを想定。今回は3階建てではなく2階建てである。建築士さんの意見も聞きながら、コスパ優先で設計…私はいい間取りが出来たと思っていたが…。
「階段の下にトイレがあるというのはどうだろう?」
義父から電話がかかってきた。どうやら恭子が、図面をFAXで佐倉家に送信したらしい。私は、「階段下トイレ」にすることで建坪を節約することが出来、建築費が大方100万円変わってくるのだと説明したが…
「落ち着いて用も足せんよ」
という。電話を切った後、恭子に事実を確認すると、自分ではこの間取りの良し悪しが判断できなかったので、両親の意見を聞こうと思ったとのこと。
「ここは誰の家なん。俺らの家ではないのか? なぜ佐倉のお義父さんお義母さんの意見を聞く必要があるの?」
私が意見すると、恭子はプイとふてくされて寝室に閉じこもってしまった。
数日後、義父からFAXが送られてきた。家の間取りの図面である。目を通したが、間取りが横を向いた「鰻の寝床」のようでどうも使い辛そう。恭子に図面を示したら、義父の意見を尊重したいという。やっぱりなぁ…。
私は気が向かなかったが、建築士さんのアポを取り、義父が送ってきた図面を見てもらった。建築基準法に定められた「窓」の確保が出来ないので、この間取りは採用できないとのこと。内心ホッとした。
結局のところ、義父の意向も採用しながら間取りを見直し…階段下トイレも解消し、最終決定とした。建築費用は若干増えたが、その分建坪が想定以上に増えたので妥協することとした。
新居は2008年6月に着工し、9月に竣工した。現居が高く売れたので、かなり費用を抑えることが出来たが、住宅ローンは2400万円から3600万円に増えた。この8年間で、住宅ローン金利はかなり下がったとはいえ、当時の私の収入からすれば、ギリギリの金額である。
見かねた親父が、こっそり200万円を援助してくれた。実家からは少し遠くなったが、森山家が堺市を出なかったので、親父なりに安心した結果であろう。
「直樹。よく頑張ったなぁ…」
その短い言葉に、親父なりのいろんな感情がこもっていた。
一方の佐倉家はというと…間取りに散々口を出し、建築費用を上げておきながら、一銭たりとも金銭的援助はなかった。これには、普段は怒りの感情を見せない親父も、心底穏やかではなかったようである。