淡い、甘い
淡いは甘み
「海を見に行きたいね」
そう呟いた君の肌は、腕時計の跡をくっきりと残して、こんがり焦げていた。
私は自分の淡い肌を、そっと日傘で影に隠す。
「やだよ、日焼けしちゃうもん」
そう呟いた私に、君はおかしいものを見たように、クスッと笑う。
何よ、別にいいじゃない。
私はしかめっ面。
「そんなに真っ白なんだ、焼けちゃったっていいじゃん、少しくらい」
少しでも焼けちゃったら、なんのために肌を守っているのかわからなくなる。
焼けたら痛いし、何より、私は白く、淡い肌がほんの少し、少しだけ自慢だった。
「だめ。焼けたくないもん」
もう一度そう言ったら、君はきっとおかしくて壊れてしまうくらい笑うんじゃないかと思ってた。
でも、私の目に写る彼は、少し悲しそうな顔をしていた。
「そっか。無理に誘っちゃってごめん」
そう微笑む君の顔を、私は見ていられなかった。
待って。一緒に行きたくないわけじゃないの。本当は一緒に行きたいのよ。
あわあわと焦るばかりでなかなか紡ぎ出せない言葉の糸が、絡まり、絡まり、団子になる。
「……行かないなんて、言ってない」
私がそっと見上げた君はもう、悲しい顔をしてはいなかった。
「そっか。楽しみだね」
そう言って無邪気に笑う。
褐色の肌が、夏の日差しに照り映えていて。
「君は淡いから、きっと碧い空と、海に、映えると思うんだ。なんだか、溶けちゃいそうなくらいに」
夏の日差しは、淡い私には熱すぎる。
まだ海も見ていないのに、溶けちゃいそうだよ。
日傘なんて、ぜんぜん、役に立たなかった。
にごりは旨み
ありがとうございました