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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第4章 対決の時
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42 約束

 チップ破壊は対象者を“別人”に変えてしまう危険もあるのだ。それはミオのチップが脳とは離れた場所に埋め込まれているものであろうと関係はない。脳とどんなに離れていようとチップが対象者の神経組織と密に結合されているものである限り、対象者の肉体・精神へのダメージの危険性については何ら変わるところはない。


 そしてその危険性はチップ破壊の正確さとも関係はない。哲也がミオのチップをどれだけうまく破壊したとしても、その危険性が減ずることはないのだ。


 チップ破壊後に対象者がどうなるか、それはまさに“神のみぞ知る”ところと言えよう。


「大丈夫だ」

 思わず哲也は口にしていた。根拠など何もなかった。ただミオの不安をぬぐい去りたかった。


 ミオはじっと哲也を見つめ続けていた。ミオもわかっていた。自分の不安を取り除くすべを哲也が持たないことを。しかし自分の希望を託せるのもまた哲也しかいないということも。


「大丈夫だ、また逢える」

 力強く哲也は言った。


「本当に?」

「ああ。そうだ、全部終わったらまたデートしよう。いや、俺が決めることじゃないな。ミオ、俺とまたデートしてくれるかな」


 ミオがフフッと笑った。


「いいわ、してあげる。もちろん全部テツヤのおごりでね。今度はソフトクリームを十本でも二十本でも突っ込んでやるんだから」

「望むところだ。全部食べきってみせるさ。ミオの驚く顔が目に浮かぶようだ」

「本当? 約束よ」

「ああ、約束する」


 ふたりはがっしりと手を握りあった。視線がしっかりと合わさった。そして数秒のあいだ、そのまま見つめ合った。

 そして哲也はおもむろにミオの体を抱きしめた。ミオも哲也を抱きしめかえした。互いの体が震えていた。


「テツヤ、もういい。もう私何も喋らない。だからきっとチップを破壊してね」


 ミオの言葉を合図にふたりは離れた。ふたりはまた互いに見つめ合った。ふたりは互いにうなずいた。

 哲也はエリカのほうを向くと言った。


「エリカ司令、お願いします」

「うむ」


 エリカはそれだけ言うと、右手に握られていた銀色に光る手のひら大のごつごつした物体を哲也に指し示した。


「これは設定した距離にピンポイントで焦点を合わせて発射できるショックガンだ。複数の口から瞬間的な衝撃波を発生させて、それらが交わる焦点のみを破壊する。焦点から外れた箇所に対するダメージは最小限に押さえることができる」


 エリカがキーを操作して何やら数字を打ち込んだ。


「ミオ君の皮膚からペースメーカーまでの距離を設定した。威力はペースメーカーを破壊できる最小限にしてあるから、焦点から外れた彼女の心臓にダメージは及ばないはずだ」


 エリカはショックガンを哲也に握らせた。


「君がやりたまえ、テツヤ君。銃の中心をこの点に合わせて真下に向けて軽く置き、静かに引き金を引け。皮膚に押しつけると衝撃波の焦点が心臓に達してしまう。皮膚から浮かすと衝撃波がうまく伝わらない。ペースメーカーの大きさから考えて許容される誤差は±1ミリといったところだろう。後は運を天に任せよう」


 哲也はうなずいた。そして慎重に銃の中心を皮膚の上の点に合わせた。皮膚がくぼまず銃口が皮膚から離れもしない絶妙な力加減で銃をセットする。銃を持つ手が思わず震えそうになる。再び一筋の汗が彼の顔を伝って流れる。


 突然、哲也は銃をミオの体から離した。彼は銃のキーを操作し始めた。数字が大きくなっていくのがエリカからも見えた。


「何をするテツヤ君。それでは心臓に焦点が当たってしまうぞ」


 エリカは彼からショックガンを取り上げようとした。しかし哲也は彼女の手を払いのけると再びショックガンをミオの体に押し当て、ためらうことなく一気に引き金を引いた。


「うっ」


 ミオの目が一瞬見開かれ、そして彼女は意識を失った。


「テツヤ君!」

 エリカが叫んだ。哲也は自分の耳をミオの胸に押し当てた。


「大丈夫です。心臓は動いています」

 わずかに微笑んで哲也は言った。エリカも急いで耳を押し当てた。鼓動は正常だった。


「信じられない。なぜ数値を変えた。それも大きいほうに」

 唖然とした表情でエリカは言った。


「予感がしたんです」

 静かに哲也は言った。


「予感がしたんです。あの数値じゃ距離が足りないって」


 エリカは自分の耳が信じられないといったように首を左右に振った。


「しかしたとえそうであったとしても、なぜその数値がわかった」

「『勘』、かな。いや、『経験』のほうが正しいかも」

「『経験』だと」

「ええ。ミオの体を何度も抱きしめてきた俺だけがわかる『経験』です」


 エリカは先ほどとは違った意味で唖然とした。


「なんてやつだ、君は。あきれてものも言えん。しかし考えてみれば、私の知っているミオ君のペースメーカーまでの距離の知識は少々古かったのかもしれんな」


 エリカは苦笑した。釣られて哲也も笑った。


「笑っている場合ではないな。彼女のチップが確実に破壊されたことを確認する必要がある。それに……」


 エリカは一瞬ためらうようではあったが、意を決したように続けた。


「チップが破壊されたとしたら彼女の肉体や精神がダメージを負っている可能性もある。わかってはいるだろうが」


 哲也はゆっくりとうなずいた。そして再びミオのほうを振り向いた。彼女がどうなってしまったのか、それはまだ彼にもわからなかった。

 エリカは立ち上がってまわりの全員を見回すと言った。


「これよりサブポイント170まで撤退する。総員気を抜くな」


 生き残った者たちはゆっくりと移動を始めた。哲也の背中には気を失ったままのミオの姿があった。

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