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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第4章 対決の時
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40 レイラ最後の言葉

 その瞬間、哲也がレイラに向かって猛然とダッシュした。

 彼は野獣のように咆吼した。正確に哲也に向けられていたはずのレイラの銃口がわずかに揺らいだ。


 レイラは混乱していたのかもしれなかった。自分に向けられた銃に対して向かってくる人間がいるなんて、もしかすると彼女には信じられなかったのかもしれない。


 哲也のダッシュと同時にミオが床の銃に飛びついた。

 レイラがそれに気づいたそぶりを見せたときにはすでにコンマ何秒かが経過していた。哲也の咆吼が彼女の注意を引きつけていたからかもしれなかった。

 銃口がコンマ何秒かさらに揺らいだ。哲也とミオのどちらに銃口を向けるべきかで迷っていたのかもしれなかった。しかしその揺らぎが止まるや銃口はミオへと向けられた。その動きは彼女にしては遅かった。彼女本来の動きを妨げる“何か”があった。


 ミオが床の銃を掴む。そしてすばやく銃口をレイラへと向ける。向き合うふたつの銃口。


 銃声がとどろいた。


「ミオ!」

 哲也はミオの元に駆け寄った。そしてその体を抱き上げた。


「ミオ、大丈夫か」

「テツヤ、ごめんなさい。私の、私のせいで……」


 ミオは哲也の胸に顔を(うず)めて泣いていた。


「どうやら私の負けというわけか」


 レイラの声にハッとした哲也は顔を上げて彼女のほうを見た。彼女の手に銃はなかった。ただその手のひらからは一筋の赤い血が流れていた。


「一瞬早く私の銃をはじき飛ばすだなんて大したものだ。銃の戦いでも、そして愛の戦いでも、私は負けたようだな」


 レイラはすでにその場を立ち去ろうとしていた。


「レイラ……」

「行くんだ、テツヤ。必ず生き残れ。そして覚えておいてほしい……。生きてさえいればいつかまた逢えるということを」


 それが哲也の聞いた彼女の最後の言葉だった。


 ■「そのとき」から、67分経過、アジト自爆まであと数秒


 エリカの通信機から声が流れた。


「司令、エリカ司令、聞こえますか」

「聞こえるぞ、テツヤ君。ミオ君は一緒にいるのか」

「はい。無事救出しました。今どこです」

「Bブロックの外壁のそばだ。あと数秒遅かったら自爆スイッチを押すところだったんだぞ」

「すみません。すぐにそっちへ向かいます」


 走りながら通話を終えた哲也は、彼と併走するミオに微笑みかけた。


 通路にはあちこちに銃痕が生々しくついていた。激しい戦闘や爆破の影響で内壁もパラパラと崩れだしている。幸いにも政府軍兵士は見当たらなかった。


「まったく、うまくいくかヒヤヒヤだったんだぞ」

「テツヤの考えてることぐらいわかるわよ。銃が足元に滑ってきたのを見て『もしかしたら』って」

「ミオなら必ずやってくれるって信じてたさ」

「ウソ言わないの。たった今『ヒヤヒヤだった』って言ったばかりじゃない」

「そうじゃない。相手はあのレイラだ。彼女の腕が俺たちを上回ることを心配したんだ」


 その言葉を聞いた途端、ミオの顔がハッとなった。


「テツヤ、彼女、撃たなかった……」

「なんだって」

「銃口が向いたのは彼女のほうが一瞬早かった。でも彼女の銃口から閃光は出なかった」

「まさか……」

「本当よ。もしかしたら彼女はテツヤを撃つつもりもなかったんじゃないかな。ううん違う。もしかしたら彼女はこうなることを狙っていたのかも」


 ふたりはしばし沈黙のまま走り続けた。哲也はあのときのことを思い出していた。


 最後にレイラが銃口を彼へと向けたときの彼女の腕の動き。確かにあの動きは必要以上にゆっくりだった。もし彼女が本気で哲也を撃つつもりであったのならば、あんな間を取る必要はなかったはずなのだ。腕をさっと上げて引き金を引くだけ。一秒もかからず事態は決していたはずだったのだ。もしかするとそれは哲也とミオに次の行動への決断の時間を与えるためだったのではないだろうか。


 そして哲也が突進してからのレイラの一連の動き。あの百戦錬磨の、あのエキスパート中のエキスパートであるレイラがあんなにも戸惑ったような動きをするものだろうか。もしレイラが哲也の咆吼に惑わされることなくミオを撃つべく動いていたならば、ミオはレイラに銃口を向ける(いとま)すらなく射殺されていたはずだったのだ。もしかすると彼女はミオに自分を撃たせるため、そしてその弾丸で自分の銃がはじき飛ばされるようにタイミングを図ったのではないだろうか。


 また哲也はこうも思った。あの時自分ひとりではどうすることもできなかった。だから自分はミオを信じた。ふたりならこの絶望的な状況をどうにかできるんじゃないかって。でも自分が信じたのは果たしてミオだけだったのだろうか。もしかしたら自分は心のどこかでレイラをも信じていたのではなかったか。


 しかしすべてはもはや過去の出来事だ。真実がどうであったのかは、おそらく永遠にわかることはないのだろう。


「テツヤ」

 ミオが哲也に声をかけた。


「なに」

「テツヤはレイラのこと好きだったの」


 一瞬の間があった。


「うん。好きだと思ってた」

「……」

「でもミオに出会ってわかったんだ。俺はレイラに憧れてただけなんだ、って」

「……」

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