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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第3章 動き出す世界
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27 脱出作戦 後編

 しかし騒ぎの震源地がふたつからひとつになったことでレジスタンス兵の対応が落ち着きを見せ始めていた。事前にある程度探っていたとはいえ、哲也とミオにとってはこのアジトの情報が決定的に不足していた。

 一方のレジスタンス兵にとってはここはいわば自分の(ホーム)。どこをどう通れば先回りできるかなどの情報には事欠かない。自然とふたりを奥へ奥へと追い込んでいく形になった。


「畜生。あっちには行けねえか」

 哲也は(うな)った。視線の先にはレジスタンス兵の壁があった。


「ちょっと! まずいじゃないの」

「ああ。しかもどうやらこのアジトの離れみたいなところへ追い込まれている気がする」

「でもそれって“端っこ”ってことでしょ。うまくいけばそこから逃げられるんじゃない?」

「でももしやつらが意識して俺たちをそっちに追い込んでいるんだとすると、おそらくそこからは逃げられない」

「えー、じゃあどうすんの」

「なんとかこの包囲網を突破できればチャンスはあるんだが」


 哲也はそう言ったが、目の前の人垣はそう簡単には抜けられそうにない。


 思案している間にもレジスタンス兵らの銃撃は激しさを増していた。ふたりは後退せざるを得なかった。

 後退を繰り返したふたりはついに通路の端へと出てしまった。もうこの先に道はない。あるのはただ一枚のドアのみ。


「出口……、ってわけじゃなさそうだな。部屋か。くそっ、もうここに立てこもるしかねえ」

「テツヤ、早く。やつらがやってくるわ」


 哲也はドアのノブを回した。意外にもそれはあっさりと開いた。ふたりは大急ぎでその部屋に走り込んだ。


 そこは小さな応接室といった造りの部屋だった。手前には小さいながらも柔らかそうなソファーが置かれており、壁には絵なども掛かっていた。しかしその絵の良さを鑑賞している暇はふたりにはなかった。

 そして奥にはやや大きめの執務机が据え付けられていて、ひとりの男が下を向いてタブレット端末のようなものを熱心に覗いていた。どうやら騒動のことなどいささかも気づいていない様子だった。


 哲也とミオは警戒しながらゆっくりとその男に近づいていった。そのとき、男がふと顔を上げた。


「おや? 君は確かテツヤ君といったね。なぜこんなところに」


 男の頭を覆う金属の板がキラッと光った。ミオが両手を口元に当てて思わず息を呑む。途端に哲也は思いだした。先日ミオとのデートのときに助けたあの男がそこにいた。


「あ、あなたは、あのときの」

「おや。その様子では私に会いに来たというわけではなさそうだね。一体どうしたというのかね」


 男はにこやかに笑いかけると立ち上がった。武器などは身につけていないようだった。


 哲也はこれまでのいきさつを簡単に説明した。自分たちが政府のスパイか何かと間違われて捕らえられたこと。拷問に耐えかねて脱出を図ったこと。しかし追い詰められてここへ逃げ込んだことを。しかし航路に関することについては黙っていた。


「事情はわかった。私がなんとかしてみよう。武器を置いて私に着いてきなさい」


 男はそう言うとドアへと向かった。その外からは投降を呼びかける声が響いていた。


「捕虜二名に告ぐ。君たちは完全に包囲された。もはや逃げ道はない。武器を捨てておとなしく出てくるんだ。そうすれば悪いようにはしない。抵抗すれば命の保証はない。繰り返す。抵抗すれば命の保証はない。おとなしく出てくるんだ」


 外の連中は完璧な陣形を整えてドアを注視していた。ドアが開くのが見えた。銃の引き金に掛かる指に一斉に力がこもる。


 しかしドアから出てきたのは彼らの予想とは違った人物だった。隊がざわついた。

「誰だあれ」という声も聞こえる。その人物に続いて哲也とミオもドアから出てくる。再び隊に緊張が走る。と、最初に出てきた人物が声を発した。


「いますぐ警戒態勢を解きなさい。このふたりは私の友人だ。政府のスパイなどではない」


 再び隊がざわつく。隊の指揮をとっているレジスタンス兵から声があがった。


「マサトシ顧問。お怪我は」


 ミオの顔に驚きの表情が走った。マサトシと呼ばれたその男は言った。


「私は大丈夫だ。それよりただちに警戒態勢を解きなさい。見たまえ、彼はもう武器を持っていない。私は脅されているわけじゃない。彼らは我々の敵ではない」

「しかし……」

「君たちはこのふたりにチップがあるかをチェックしたのかね」


 マサトシのこの言葉に明らかに狼狽する指揮の男。


「い、いえ……」

「賭けてもいい、このふたりにチップはない。政府のスパイならありえんことだ」


 そしてマサトシは哲也のほうへ振り向くと言った。


「今の私の言葉に間違いはあるかな」

「いいえ、その通りです。でもなぜそれがわかったんですか」

「詳しい説明は後だ。君たちふたりにはチップはない。ということは君たちはどこかのレジスタンスの一員だね」

「はい」


 哲也のその言葉を聞いてマサトシは再び指揮の男のほうに向き直った。


「聞いての通りだ。彼らが政府のスパイでないことははっきりした。今すぐ警戒態勢を解きなさい」


 強めの口調で言われたその言葉だったが指揮の男はまだ決断がつかないようだった。彼はどこかに連絡し相談を始めた。そしてそれが終わってようやく警戒態勢は解かれたのだった。



 騒動が終結して哲也とミオはマサトシとともに奥の部屋のソファーに腰掛けていた。ふたりの扱いを自分に一任するようにマサトシが支部責任者の了承を取り付けたのだ。


「そう言えば私の紹介がまだだったな」

 マサトシは言った。


「私の名はショウダ・マサトシ。レジスタンス組織『自由の旗』の顧問をしている」

「『ショウダ・マサトシ』! じゃあやっぱりあなたは」

 ミオが叫んだ。

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