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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第3章 動き出す世界
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26 脱出作戦 前編

 哲也とミオに対するレジスタンス兵の尋問は連日続いた。


 尋問は時には深夜にまで及び、ようやくそれが終わったかと思うとまどろむ間もなくまだ陽の出ぬうちから再開されたりした。

 “尋問”とは言ってはいるものの哲也も聞いている現代の警察による取り調べなどとは次元が違っていた。それはまさに“拷問”の部類に入るものだった。


 しかも相手はただ単に自分の役目としてその尋問を行っているのではなかった。彼らは政府に対して激しい憎悪を抱いていた。彼らは自分たちの憎むべき“敵”に対するものとしてふたりに相対したのだ。もちろんふたりに弁護士などがつくわけはなく、ふたりはその過酷な尋問に個別にひとりで立ち向かわなければならなかった。


 尋問室にはチップの通信を遮断するシールドが備えられていた。尋問が普通の政府軍関係者に対してのものならば、チップの呪縛から解放された環境で少々痛めつけさえすればすぐに耐えきれなくなって自白するのが常だった。なのでそこには自白剤の類いは備えられていなかった。また拷問具についても基本的なものしかなかった。それらのことがふたりには幸いだった。


“ミオと一緒にここから脱出するんだ”


 哲也はそのことを強く思うようになっていた。あらゆる瞬間が脱出の準備のために使われた。尋問による体力の消耗はなるだけ押さえる。できうる限りここの構造の把握に努める。そしてなによりミオの状況を探る、そのことに重点が置かれた。

 するとひとつのことが浮かび上がってきた。尋問の時間帯にパターンがあることがわかってきたのだ。それは恐らく哲也とミオの尋問が別々の時間帯に行われていることを示すように思われた。


「どうやら尋問室はひとつしかないっぽいな。ふたりの尋問が連続して行われるときがミオと接触できる最大のチャンスになる。入れ替えのときに俺が騒ぎを起こせばミオもきっと気づいてくれるに違いない。ここはそんなに大きくないようだから二箇所で同時に騒ぎを起こせば互いに相手の位置が掴めるだろう。さらにはやつらの対応も二箇所に分散されるからミオと接触できる可能性は高まるはず。あとはミオさえ無事でいてくれれば」


 哲也は慎重にチャンスをうかがった。そしてその時は意外に早く訪れた。“哲也→ミオの順で連続して尋問が行われる”と哲也が認識していたパターンが来たのだ。


 哲也は自身の尋問中に抵抗をあきらめるそぶりをわざとみせた。従順になったと見せかけることでその回の拷問を軽くすることを狙ったのだ。哲也のしぶとさにほとほと参っていた尋問者はこれ幸いと簡単に彼の策に引っかかった。手かせ足かせが外されるなど扱いは一変した。哲也は相手に期待を持たせるようなことを言ったかと思うとはぐらかしたりして時間をつぶした。もちろん言うことはでたらめだ。とにかく今は体力を温存したまま尋問室を出ることが大切だった。


 尋問は終わった。哲也はいつもの牢卒に付き添われて尋問室を出た。付き添いは二名。さすがに手かせをはめられはしたが、心なしか監視の目がいつもより緩いように彼には感じられた。騒ぎを起こすポイントは事前に決めてあった。そのあたりは通路が数多く交差しており、ミオの居場所さえわかればそれがどこであろうと向かえるはずだ。


 ポイントまであと十数メートル……


 突然、哲也の耳に人の叫び声が聞こえた。怒鳴り声がそれに重なった。アジト内が慌ただしくなるのがわかった。


“ミオだ”


 瞬時に哲也は理解した。彼女も同じことを考えていて彼よりほんのわずか早く実行したのに違いなかった。


 理解と同時に哲也の体が動いた。大声をあげて牢卒のひとりをはね飛ばした。銃を奪い、もうひとりを威嚇する。


「捕虜が逃げたぞ!」


 もうひとりの牢卒が叫ぶ。哲也は彼に銃をぐっと突きつけるように向けるや一転して騒ぎの震源地目がけて駆け出す。


「うおおおおお! どけどけっ!」


 大声で吠えながら哲也は走った。レジスタンス兵を威嚇する意味もあるが、ミオに自分の位置を、そして自分がそちらへ向かっていることを伝えたかった。


 前方のレジスタンス兵が哲也を見て混乱していた。その兵は最初に起きた騒ぎに駆けつけるつもりだったのだが、大声で吠えながら向かってくる哲也の姿を目にしてどっちに向かうべきなのかわからなくなっていたのだ。浮き足だったようにキョロキョロするその兵のさまから哲也はミオのいる方向を察知した。


 ついに哲也は騒ぎの震源地へと飛び込んだ。そこには何人ものレジスタンス兵が寄ってたかって押さえ込もうとしている人影があった。


「ミオ!」


 哲也はそこへ向かって叫ぶと銃を(はな)った。レジスタンス兵の塊が崩れた。その中から小柄な影が哲也のほうへと走り寄る。


「遅かったじゃない」


 ふくれっ(つら)が文句を言った。それはまさしくミオだった。顔や手足に拷問の跡が痛々しい。


「悪かった。本当は俺の方が先に騒ぎを起こすつもりだったんだけど」

「だと思ったから毎日待ってたのにいつまで経ってもやんないから」

「参ったな。時間の話じゃなく日にちかよ」


 哲也は苦笑しながらレジスタンス兵の塊めがけて銃を放つ。ミオとともに塊の反対側へと走り出す。

 哲也は隙を見て銃でミオの手かせを破壊した。銃をミオに渡し、自分の手かせも破壊してもらう。


「これでOKね。で、どっちへ逃げるの?」

「えっ」


 ミオの言葉に戸惑う哲也。


「『えっ』じゃないでしょ。これからどっちへ逃げるのかって聞いてんの」

「ま、まあ大体は考えてあるけどなんで俺に聞くんだよ。ミオだって考えてあんだろ」

「だってテツヤには『予感』があるじゃない。それでどっちに逃げたらいいかわかるんでしょ。下手に考えるよりそっちに頼ったほうが確実」

「そんな都合のいいタイミングで予感が降ってくるかよ。自分の意思で呼び出せるわけじゃないんだし」

「えーっ。ホント肝心なときに使えないんだから」


 再びふくれっ面になるミオ。上目遣いでこっちを見るその顔を見た哲也に思わず笑いがこみ上げてくる。


「『使えない』とか言うなよ。ほら、こっちだ」


 通路のコーナーから顔を出したレジスタンス兵に向かって銃を放ち、哲也はミオを促すようにして走り出す。

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