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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第3章 動き出す世界
25/48

24 動揺

 ■


 哲也とミオが行方不明、このことは航路内に大きな動揺をもたらした。


「それでどうだったんだ、現場の様子は」

 エリカが報告に来た部員を促した。


「警備役は全員射殺されていました。恐らく何らかの銃撃戦に巻き込まれたものと思われます。ふたりがいたと思われる二階にふたりの痕跡はありませんでした。地図や特殊通信機もです。こちらには銃撃の跡はありません。ただ……」

「『ただ』、なんだ」

「事前の調査によると室内の一角に事務机が積み上げられているはずなのですが、それが乱雑に崩されていました」

「なんだと」

「さらにふたりのものとは異なる複数の靴跡が部屋全体にわたって見つかりました。あの日は雨でしたから、これは明らかに外から複数の人間が入ってきたことを示しているものと思われます」


 エリカは難しい顔を崩さず部員に向かって問いかけた。


「それでその連中は何者なんだ」

「申しわけありません。まだ不明です」

「なんだと。今の時代、政府軍を除けば武装した集団といえば限定されるだろう。それがわからんというのか」

「実はその政府軍である可能性が……」

「なにっ」


 エリカは思わず身を乗り出していた。


「どういうことだ」

「どうやらあの夜、付近で政府軍を巻き込んだ戦闘があったようなのです」

「相手は」

「現在調査中ですが、恐らくどこかのレジスタンスではないかと」

「うむ。しかし確かあのあたりには政府関係の施設はなかったはずだぞ」

「はい。あくまでこれは推測ですが、政府軍部隊の移動途中を狙ったのではないかと」

「なるほど。まあ戦闘の理由はいい。それでそれに巻き込まれたと言うのだな」

「はい。政府軍部隊が移動に使用していた幹線道路からあのビルへの道一帯に銃撃の跡が確認できました」


 エリカは再び深々と椅子に腰を下ろした。彼女はしばし何かを考えているようだったが、やがて言った。


「警備役が撃たれた銃弾を調べたな」

「はい」

「銃弾は政府軍のものだったのだろう」

「はい」

「そうか。しかし仮に政府軍の相手がレジスタンスだとすると、そいつらが政府軍から奪った武器を使用した可能性もあるな」

「おっしゃるとおりです。なので先ほどは『不明』と申し上げました」


 エリカは目を閉じた。彼女のなかで様々な思考が飛び交っていた。ふたりの探索・救出についてはもちろん、今後への影響について。そして考えたくはなかったが最悪の事態が起きた場合の対処方に至るまで。


 エリカは苦悩を表に出すことはなかった。組織トップの動揺は必ず全員に波及する。彼女は並々ならぬ精神力で平静を装い続けた。そして普段の冷静な“エリカ司令”そのままの様子と口調とで部員に言った。


「わかった、ご苦労だった。引き続き調査と捜索を進めてくれたまえ」


 部員は敬礼すると出て行った。すぐに入れ替わるようにアオイが部屋に入ってきた。


「まずいことになった」


 一転して苦渋の表情になったエリカが言った。もともと不安げにしていたアオイの表情にさっと影が差した。


「エリカ、テツヤ君とミオに何があったの」

「まだそうと決まったわけではないのだけど、ふたりは政府軍に連行された可能性があるの」


 エリカのアオイに対する言葉使いはやはり他に対するものとは違っていた。アオイがなるだけショックを受けないようにという思いやりがそこにはあった。


「えっ」

「ただ政府軍方面からはあの晩の出来事についての発表は何もないの。レジスタンスに関わることだからわざと発表しないでいるんでしょうけど。もしかしたら……」

「もしかしたら?」


 エリカはその先を続けることを一瞬ためらった。しかしゆっくりと続けた。


「生きた捕虜などいない、のか」

「そんな……」


 エリカの言葉の表すものがわかって思わず息を呑むアオイ。


「まだそうと決まったわけじゃないのよ、アオイ。政府軍に捕まっているとは限らないし、ましてや殺されたなどとは。またこの前のようにどこかに身を隠しているだけなのかもしれない。ただ複数ある連絡手段が全部使えなくなることは考えにくいのだけど」

「エリカ……」

「今一番考えられるのはふたりとも政府軍かあるいは何らかの組織に捕らえられているということ。ふたりが生きている可能性はかなりあるはずよ。だから私が今考えているのはふたりの生死なんかじゃないの。ふたりは生きている。ただふたりが政府軍に捕まったのだとすると大きな問題がひとつあるの」

「それは、どんな」

「もしそうだとしたらたとえ殺されなかったとしても、ふたりにはチップが埋め込まれることになる、ってこと」


 その言葉にアオイはハッと気づいた。そして恐る恐る声を震わせて尋ねた。


「もしそんなことになったら」

「そうなったらふたりをここに近づかせるわけにはいかない。ふたりがここに近づくようなことがあれば、航路の手でふたりを殺さないといけないことになってしまう」

「そんな。でも『伝承』が……」

「そう。アオイ、今となってはその『伝承』だけが私たちふたりの希望。私たちが見誤ってなければだけど」

「何を言うの、エリカ。あのふたりに間違いないわ」

「もちろん私もそう思っている。それに繰り返すようだけどまだ政府軍と決まったわけじゃない。望みはまだきっとある」

「なんとかふたりを助けて、エリカ」

「全力は尽くしているわ。でもアオイ、非情のようだけど最悪の事態も覚悟しておいてちょうだい」


 エリカはそういうとアオイに背を向けた。アオイのメガネの下からは涙があふれてきていた。

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