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すばらしき新世界へようこそ  作者: 金屋かつひさ
第2章 哲也とミオ
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13 航路

 哲也は病院の検査着のようなものに身を包んで広い部屋の中にいた。そんな彼を何人もの人間が取り巻いている。整形が当たり前だった街とは違い個性的な面構えの面々が彼ひとりを見つめている。と、ひとりの背の高い女性が哲也の前に進み出た。


「おめでとう。君が自由な人間であることは立派に証明された。『航路』へようこそ」


 彼女が差し出してきた右手に哲也は戸惑った。


 一切はあっという間だった。目隠しのまま訓練センターから運び出された後、何か乗り物に乗せられたらしく何度もカーブを曲がるのがわかった。ただレイラと乗った車のようにスムーズな動きではなかった。

 どこかの建物に運び込まれてから目隠しは取ってもらえたのだが、それからはいくつもの検査が彼を待ち構えていた。身体測定から血液検査、心電図や脳波に全身の断層撮影やら見たことも聞いたこともないようなものまで。わけがわからないうちに立て続けに行われた。


 哲也にわかっていたのはふたつのことだけだった。ひとつはどうやらここが政府に抵抗するレジスタンス組織の施設であるということ。そしてもうひとつはおそらくあの謎の少女の仲間であろうということ。ただ、あの“声”の主にはまだ出会えてはいなかったが。


“たぶんあの検査のうちのどれかで俺の体にチップがないかを確認しているのだろう”

 哲也は推測した。


 チップをアジト内に持ち込まれることはレジスタンス組織にとって決して許してはならないことだ。なぜならその持ち込まれたチップを通して政府はそのアジトの位置を簡単に掴むことができてしまうからだ。

 哲也のような人間をアジト内に連れてくるにあたってチップがないことを入念に検査するだろうということは、レジスタンスに関してずぶの素人の哲也であっても容易に想像できることだった。

 そしてどうやらその一連の検査に哲也はパスしたらしかった。彼に手を差し出した女性の言った「君が自由な人間であることは立派に証明された」の言葉がそれを物語っている。


 しかし哲也は彼女の手を握り返すことに躊躇した。

 女性の名は“エリカ”。哲也が拉致されてきたレジスタンス組織「航路」の代表かつ司令。そのひどいくせ毛はライオンをイメージさせる。背は高く、がっしりとした体つきと頬に残る傷跡が女性ながら歴戦の勇士であることを示している。年齢は二十代後半から三十代前半といったところか。


 そのような人物が自ら進んで差し出した手と握手することに哲也が躊躇したのにはわけがあった。

 確かに哲也は政府によるチップ埋め込み手術を拒否した。それは政府を拒否したと同じと言っていい。しかし彼が今このアジトの一角にいるのはいわば拉致されたからであり、彼自身の意思で組織に加わったわけではないからだ。

 哲也が握手を躊躇しているのを見てエリカが言った。


「何かね。我々の仲間にはなりたくない、とでも」

「いや、正直よくわからないんです。チップがどうやら支配のための道具だっていうのは俺にもなんとなくわかります。でもだからといって平和に暮らしているように見えるあの人たちの生活を破壊するようなことが許されるのかって」

「なるほど。つまり今の君の意見は『判断を保留したい』というわけだな」

「『保留』か。ええ、そうです」


 哲也のその言葉に意外にもエリカが微笑んだ。彼はフッと気が楽になるのを感じた。どうやら相当緊張していたらしい。

 哲也は自分を落ち着かせるようにひとつ息を吐いた。そして改めてまわりを見回してみた。


 まわりにいる人たちもエリカに負けず劣らずひと癖もふた癖もありそうな人たちばかり。そのような組織で司令を名乗れていることからも、エリカ自身の実力、戦闘だけでなく人心の掌握においても、が相当なものであることは間違いないだろう。


「まあ仕方あるまい。君は政府のエージェントによってチップの暗黒面を見ないようにコントロールされてきたんだからな」

「政府のエージェントって。それってレイラのことですか」

「名は知らない。しかし彼女は我々だけでなくほかのレジスタンス組織にとっても最も厄介な敵のひとりであることは疑いようがない」


 “敵”。想像していたとはいえその単語を実際に聞かされた衝撃は大きかった。哲也は頭の中が空っぽになるような心地がした。


「レイラ……。どうしてこうなっちゃったんだろう」


 哲也はうつむきながら思わずつぶやいた。エリカが言った。


「感傷はそのぐらいにしておいてもらおうか。我々は前に進まなくてはならない。君はこれからチップの裏の顔を知らねばならない。そして政府と我々との関係をもだ」


 エリカが合図するとひとりの女性が進み出て来て哲也を別室へと案内した。



 四、五十人は入れるかと思われる階段教室の中に哲也はひとりで座っていた。目線の先には航路の講師。もう二時間以上も哲也ひとりのための講義が続いている。


「このようにチップは政府による一見合法的な支配の『かなめ』の位置を占めています。チップは一度埋め込まれると再び取り出すことが非常に難しく、またその機能は半永久的に働き続けます。見る、聞く、触る、におい、味の五感を自在に操ることができるだけでなく、五感以外の感覚、例えば重力を感じる感覚なども自在にだますことができます。好き、嫌いなどの感情さえも作り出すことができます。よってチップを埋め込まれた人間を説得などによって目覚めさせることは不可能で、チップを中心としたそのシステム自体を破壊するほかはないのです」


 哲也は必死にノートを取っていた。講義の内容は概論・歴史からチップシステムそのものについてへと移ってきていた。


 講師の年格好はかなり若かった。二十才になるかならないかという感じか。そういえばここで見た人たちは今のところ皆若い人ばかりだ。最も年上そうなエリカでさえせいぜい三十代前半。もっと年上の人がいるのかはわからなかった。

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