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ネコみたいな彼女

作者: 反兎


俺の彼女はネコに似ている。


甘えてきたので懐いたのかと思い手を出すと、噛みつかれる。

気分屋で自由奔放、だからいつも俺が振り回される。


そしてそんな彼女は少し常識が欠けていて−−−、


「ねえねえ…」


俺が週刊少年雑誌を読んでいると、千也子(ちやこ=チャコ)が呼ぶように服の袖をくいくいっと引っ張る。

こうやって俺を呼ぶのがチャコの癖だった。


俺はマンガを読みながら、一応「うん…?」とから返事をする。


「浮気してもいい?」

「うん−−…」


と、またから返事をしたが、さすがにさらぁーと流せないほどの突飛な事をチャコが言ったので、驚いてチャコを見た。


(え…?今なんて言った−−−…?)


マンガに集中していたがチャコの言った言葉に俺は一瞬固まり、自分の耳を疑った。

そして頭の中で何度もチャコが言った言葉を詳細に繰り返し、かみ砕いた。

が、いくらかみ砕いてもさっぱり言葉の意味が理解できない。できるはずもない。


「何言ってんだよ!駄目に決まってんだろ!!」

「駄目に決まってるの?」


チャコは可愛いお目めをパッチリ見開いて、キョトンとした顔で首を傾ける。この不思議そうに答えを求めるチャコに、俺は開いた口が塞がらない。


「そうだよ!!」

「何で?」


俺は言い切ったがチャコはまた不思議そうに、今度はさっきと逆に首を傾けた。俺は愕然とする。


何でって−−−、それが世間一般の常識ってもんだろ−−−…(涙)


俺は目の前が一瞬暗くなり、ふらっとっしたが、持ち直す。


「何でって俺たち付き合ってんだぞ!彼女が浮気したいって言ったからって「はいそうですか」で許す訳がねーだろが!!」

「チャコたち付き合ってるの?」


キョトンとした顔で彼女だと思っていた女に聞き返された。


(もう嫌だ−−…)


俺は全身の力が抜けるのを感じ、脱力する。


付き合ってるよ。付き合ってる気満々でしたけど、こっちは…

もしかして付き合ってるとか思ってたの俺だけ?

あれ?もしかしてこれって俺が付き合ってるって勘違いしてたりするパターンか…?


俺が疑心暗鬼になりかかっていると、「そっか、付き合ってるんだ…」とチャコが呟いているのが聞こえてきた。


俺は「はぁ…」と深いため息をついて、チャコに聞く。


「他に好きな奴でもできた?」

「うんう」

「じゃあ…もう俺の事好きじゃないとか…?」

「うんう」


チャコは首を左右に振って否定する。それで俺は余計に解らなくなる。


じゃあ誰と浮気するつもりだったんだ?そこらの顔だけイイ男か??それともあのピザ屋の配達の兄ちゃんか!?

いや…もしかして−−−、試されたのかな俺…?


俺はチャコの真意を見極めようと色々考えるが、いくら考えても解らない。

チャコは気まぐれで、その時々の思いつきや気分で行動する事が多く、変わりやすいので予想ができないのだ。

チャコの真意を探ろうと、眉間にシワを寄せて俺がジーーとチャコを見ていると、


「でもチャコ、溝端に付き合ってとか好きとか言われた事ないよ」


あ…確かに…と、俺が思っているとチャコがぼそっと小さな声で、「チャコは言ってるのに…」と拗ねるように言った。

それに胸が締め付けられる。


俺はチャコと付き合っていると思い込んでいたので、ちゃんと伝えていなかった。それに言わなくてもチャコも自分と同じ気持ちでいると思っていたので、言わなくてもいいと思っていたのだ。


チャコが変な事を言い出すのもおかしくないと思い、ちゃんと伝えないとな−−…と思っていると、チャコは笑顔で俺に爆弾を投げつけた。


「よかった〜。ただヤリたいだけかと思ってたよ」

「そんな訳あるか!!」


お前は俺をそんな男だと思ってたのか!!?と、心の中で叫び、好きな女にそんな風に思われていたのかと、俺は立ち直れなくなりそうなほど心の底から落ち込み、もう気を失いそうだった。


だがこんな風に思わせてしまったのも俺のせいだ…と反省し、ちゃんと伝えようとしたが、いざ言おうとしたら思ったより難しく、口に出来ずに戸惑っていると「ねぇねぇ」とチャコがまた服の袖を引っ張った。


「チャコの事好き?」


しっぽを振りながら、遊んでもらえると期待して目を輝かせているネコみたいにチャコは見つめてくる。俺は恥ずかしくなって押し黙ってしまう。


何でそう簡単に言えるかな…そういう事−−−。

そうやって聞かれたら答えにくいだろ…ただでさえ言いづらいのに…


俺は少し、ぶっきらぼうに答えた。


「好きに決まってるだろ…」


チャコはしっぽを振って嬉しそうに喜ぶ。本当にネコみたいだなと思っていると、チャコは俺に抱きつき、


「チャコも好きだよ」


と、満面の笑みで言い、甘えてくるネコみたいにすりつく。俺は胸がキューーっと締め付けられる。


もうこれが、俺には可愛いくて可愛いくて仕方がなかった。

思いっきりチャコを抱きしめると、チャコは喉を鳴らすネコみたいに満足しているのが解る。


チャコを後ろから抱き込むようにしていると、いつものようにチャコがお手玉をし出した。


「本当好きだなお手玉」

「うん」

「でも2つじゃお手玉にならないだろ…?」


するとチャコが振り向き、


「これでいいんだよ」


と、幸せそうにチャコは笑う。


「だってこれが溝端に会わせてくれたんだもん」


そう、俺たちの出会いはお手玉だった。

「おむすびころりん」ならぬ「お手玉ころりん」だった。


あれは大学に向かう坂道を歩いてる時だった。

前からポーンと何かが飛んできて、コロコロ〜と足下に転がってきた。


(何だろう…?)


と思って見たら、転がってきたのは水玉模様のお手玉で、俺は少し汚いものを持つように足元にあるお手玉を拾った。


今どきめずらしいな−−…と持ち上げたお手玉を見ていると、太陽の光をまとった背の低い女の子が目に入った。

ちょっと一瞬、天使かと思った。(言い訳ではないが…白いロングのワンピースが目立ったので、そう見えたのだ)


その女の子は驚いたような顔をし、嬉しそうにこっちへ走ってきて勢いよく俺に抱きついた。


こんな大胆な事を女の子にされたのは初めてで、俺は心臓バクバクだった。軽くパニックになりそうになり、慌てていると、


「ありがとう」


と、女の子は俺を見上げて満面の笑みで言った。

ちょっとこの笑顔に俺は、ときめいてしまった。


「名前は?」

「溝端−−…」


フルネームで答えようとしたが、まだ名字の所で女の子は「溝端!」と、また嬉しそうに俺を抱きしめた。


この女の子がチャコで、俺はなぜかチャコに懐かれた。


そのまま当然のように一緒にいるものだから、俺は付き合っているものだと思っていたのだ。


チャコは小さく、150センチもないから165センチあるかないかの俺には調度よかった。いつもダボッとした服装でロングスカート、それによくカチューシャをしていて長い髪もネコっ毛でフワフワしていてる。

だから最初見た時、天使だと思ってもおかしくない。(←しつこい)


ほんと気分屋で自由だが、俺にはそれが可愛いかったりした。それにチャコはよく笑う。

太陽みたいに明るい笑顔でこの笑顔に俺は弱く、だからチャコが脱力させるような事を言ったり常識外れな事をしても、この笑顔で大抵の事は許してしまっていた。


チャコは実家と俺の所を行ったり来たりしているので、一週間ぐらい家を開けるのは当たり前だった。なので俺はチャコが帰って来なくても実家にいるのだろうと思っていた。


だが一週間過ぎてもチャコは帰って来ず、二週間が経とうとしていた。


大学にも来ていないし、さすがの俺も何かあったのでは…と心配になり電話をするが繋がらない。

『どこにいるの?』とメールを何通も送るが、チャコからの返信は一通もなかった。


実家に行ってみようかと思うが、俺はチャコの実家がどこにあるのか知らなかった。チャコの友達にも聞いたが「知らない」と言われた。

八方塞がりで、こうなったら意味はないが警察に相談しようかと思った時に、ガチャガチャと鍵を開ける音がし、玄関のドアが開いた。


チャコが目に入り俺は安堵したが、急に怒りがこみ上げてきた。


「どこ行ってたんだよ!?心配したんだぞ…ケータイも繋がらないし…」


チャコはずっと下を向いて押し黙っている。


「どこにいたんだよ…何とか言えよ!!どれだけ心配してたと思ってたんだよ…

何かあったんじゃないかって思って不安だったんだぞ…」


チャコは辛そうに眉を寄せて、


「ごめん…」

「いいよ…もう…、無事に帰って来たから」

「これ返す」


俺は差し出されたものを見て、愕然とする。それは俺の部屋の鍵だった。


「何で…?」

「もう必要ないから」

「何で?せめて理由を教えてよ…」


チャコは終止、俺と目を合わせようとしなかった。チャコはスカートを強く握り、


「もう溝端の事好きじゃない…」


そう言うだけ言って無理やり鍵を俺に渡し、チャコは逃げるように去って行った。


俺は今目の前で起こった事が理解できず、受け止められなかった。

自分たちは上手くいっていると思っていたのに…まさに思いっきり手を噛みつかれた。


俺はその場に崩れ落ち、涙が止まらなかった。


それからは大学にも行かず、ずっと部屋に引き込もっていた。大学に行くとチャコと顔を会わせるかもしれないからだ。


部屋にはチャコのものがたくさん残っている。何度となく腹が立って捨てようとしたが、もしかしたら帰ってくるかもしれないと思うと捨てられず、チャコの服を抱きしめてはまた泣いていた。


いつまでもこんな事をしていたらいけないと、やっと少し立ち直り大学に行った。

すると誰かに腕を掴まれた。


「あんた今まで何してたのよ!?」


振り向くとチャコの友達2人がいた。


「あんたもチャコも連絡はつかないし、大学にも来ないはで…、チャコは?」

「知らない」

「知らないって何?あんたなら知ってるでしょ」


知らないよ−−…だって−−


「俺たち別れたんだ…」

「嘘なんで?」

「知らない…チャコが別れようって…」

「そんな訳ない!!」


なぜか友達は言い切った。だが、そんな事を言われたってそれが事実だ。


友達は信じられないという顔をしていたが、俺の落ち込みようから別れたのが本当だと解り、戸惑っているみたいだった。


「あの子があんたをフル訳ない…だってあんた…あの子の初恋の相手よ」

「え…?」


俺は訳が解らずにいると、友達が説明するように話し出した。


「あの子モテるのよ。小さいし可愛いでしょ。でも告白されてもいっつも断ってて、結構カッコイイ奴から告白されたりしても断ってたから、だから何で誰とも付き合わないのかって聞いたらあの子「好きな人がいる」って。「誰?」って聞いたら「さあ?」って言うのよ。訳わかんないでしょ。

何でも昔、木から降りられなくなって助けてくれた男の子の事がずっと好きみたいで、その初恋の相手を探してるとか言うのよ。そんなの見つかる訳ないでしょ。名前も解んないし顔だって曖昧だろうに…まあ、あの子らしいっていったららしいけど…」


友達はその時の事を思い出したように笑う。


「それなのに大学に入ってあんたと付き合うようになったから私驚いたのよ。そしたらあの子「溝端がそうなんだ」って、「やっと見つけた」って嬉しそうに笑うの。

また訳のわかんない事言ってると思ったわよ。昔1回会っただけの奴の事なんか解るわけないもの。でもあの子「絶対間違いない」って自信満々で…信じられなかったけど、あの子が言うなら本当にあんたで間違いないないような気がした−−…」


そんな事初耳だ。だけど昔にチャコと会った事なんてない−−…俺がチャコの勘違いだと思っていると、


「そんな子が理由もなくあんたと別れる訳がない。あんたと別れるって事は相当な理由があるのよ」


そんな事を言われても…と思ったが、俺は確認せずにはいられなくなった。いや、ただチャコに会いたかっただけかもしれない。

俺はチャコの実家から宅配が来ていたのを思い出し、慌てて家に帰る。


俺は部屋がぐちゃぐちゃになるのも気にせず、部屋を荒らすように段ボールを探した。


「あった…」


俺はその伝票の紙を引き剥がし、急いでチャコの実家に向かった。


電車を降りて駅員にどこら辺か道を聞き、行き方を教えてもらった。バスを降りて「ここら辺のはずだ」とチャコの実家を探していると、高台にある1本の立派な木が目についた。


その風景に、俺は何だか見覚えがあるような気がした。


チャコの実家が見つかり、チャイムを鳴らそうと思うがもしチャコに拒絶されたらと思うと恐く、勇気が出ずにいると女性が家から出て来た。

女性は俺に気づき、


「溝端さんですか…?」

「はい…」


まだ名乗っていないのに、女性は俺の事を知っているみたいに尋ねた。

年の離れた姉がいると聞いた事があったので、俺はその女性がチャコのお姉さんだと解った。

お姉さんは心の底から嬉しそうに、安心したように笑って、


「よかった来てくれて…会ってあげて下さいあの子に」


チャコはあまり弱っている自分を見られたくないのか、風邪を引いたりすると必ず実家に戻っていた。

だから何か重い病気にでもかかり、寝込んでいる自分を見られたくないから別れを切り出したのだと俺は思った。


お姉さんは俺を家に迎え入れ、玄関近くの引き戸の部屋に入るように促す。

俺はそのドアを開けて中に入ろうとしたが、和室のその部屋には布団はなく、あったのは仏壇だった。


俺は理解できなかったがすぐに解った。信じたくなかったが、目の前には疑いようのないものがあった。

それでもやはり俺は信じたくなく、何かの冗談なような気がしていた。


「肺がんだったんです。辛い治療を乗り越えて治ったと思ってたんですけど…再発してしまって…」


お姉さんが説明し出す。


「二週間前に安らかに眠りました」

「嘘ですよね…?嘘だって言って下さいよ…チャコがふざけてるだけだって…そんな…だってあんなに元気だったじゃないですか…」


お姉さんは辛そうに微笑み、玄関口に大切そうに置いてあった手紙をとり、


「あなたが来たら渡してくれって、読んであげて下さい」


と、俺に差し出した。


「よかったらお茶でも」と言われ家に上がらせてもらい、ダイニグテーブルの椅子に座ってチャコからの手紙を見る。


ピンク色の封筒で右下にワンポイントで黒ネコの絵があった。

チャコらしいなと思いつつ、読みたいが少し読むのが恐く、俺は震えながら手紙を開けて読んだ。



溝端へ


ごめんね…怒ってる?

大方はお姉ちゃんから聞いたよね。そういう事なの。

溝端には弱ってくのを見られたくなかった。辛いんだあれ…

だからこんな別れ方だけど許してね。


実はね、昔会ったことがあるんだよ。溝端は笑うかもしれないけど溝端はチャコの王子様なんだ。

木から降りられなくなってるチャコに手をさしのべてくれたんだよ。あの時はありがとうも言えなくて、走って逃げちゃった(笑)

お手玉が転がって拾ってくれた溝端を見た時、すぐに解ったんだ。あの時の男の子だって。


運命だと思ったの。ほんとうに凄く嬉しかった。


知ってる?1回目は偶然だけど2回目は運命なんだって。

だからチャコたちは運命なんだよ。運命で繋がってるからいつかまた会えるって信じてる。


チャコ


手紙を読みながら、俺はまた涙が止まらなくなった。


「何度も書いては書き直してました。伝えたい事が多すぎたみたいで…」


お姉さんは見計らったようにお茶を出す。


「本当は残すつもりはなかったみたいなんです。悲しまれるぐらいならあいつは本当自分勝手だって怒ってくれる方がいいって。

あなたと別れた後、あの子ずっと泣いてました。あんな事言いたくなかったのに、あなたのあんな顔は見たくなかったって−−−…」


あの後、泣いてたんだな……と俺は思う。


「−−−見ているこっちが辛くて、何度あなたに連絡しようかと思いました。

この手紙も何度もあなたに送ろうと思ったんですけど…あの子がそれを望んでないから…、だからあなたがここに来てくれる事をずっと待ち望んでいたんです。本当に来てくれて良かった。

あなたに再会できた事をあの子は凄く喜んでいました。運命だって、なんの確証もないんですけどね。でもあなたに再開できた事があの子には1番の贈り物だったと思うんです。だからありがとうございます」


何度そう言われようと俺にはそんな記憶はなかった。


「でも俺…そんな覚えありません…」

「それでもあの子はあなただと信じてました。例えそうじゃなくても…それでいいんです」


お姉さんは優しく微笑んだ。あまり似た所がないが、笑うと少し似ている気がした。


その後少しチャコとの思い出話をし、俺はチャコの実家をあとにした。


俺はどうしても自分がその男の子だとは思えなかった。何だか罪悪感を感じてしまう。

せめて本当に自分がその男の子なら、チャコにとって救いになるような気がしたが、そんな記憶はどこにもない。


するとまたあの木が目につく。

やはり見た事があるような気がすると思っていたら、ある事に気づいた。


(あ…ここじいさんの家に近いんだ…)


大きくなってからは行く事が減ったが、幼い頃はよく連れて来られた気がする。それなら俺が覚えてないだけで、もしかしたらチャコに会っているかもしれない。

少し望が出てきた。


知るのが恐かったが、俺は母親に電話をして聞いてみた。「昔、自分が女の子を助けた事がないか」と。母親が知っているかは解らないが、唯一の頼みの綱がここしかなかった。


「さあ?どうだったかしら?そんな事あったかしらね〜…?」


母親は対して本気で考えているようではなかったが、


「あ…おじいちゃんのあの木の所?助けたかどうかは知らないけど、そういえばあんた天使に会ったとか訳の解らない事言ってた事があるわよ。天使が木から落ちたーってこれが証拠だってお手玉見せて−−−」


母親は少しバカにするように続けようとしたが、俺は遮る切った。


「お手玉の柄は?」

「え…?」

「お手玉の柄は何だった?」

「あぁ…えーと水玉よ−−−」


チャコのお手玉も水玉だった。


「会ってた…本当に会ってた−−−…」


そして俺は気づいた。

だから2つでよかったんだ……一つは俺が持ってるから。


俺はその場に泣き崩れた。


気づくかよ…普通解んねーよ…そんな10年以上も前の事…覚えてる訳がない…

言ってくれれば良かったのに…

こんな別れ方嫌だよ…せめて最後まで一緒にいたかった−−−…


どれだけその場に座り込んでいたのか解らない。すると「ニャー」と、野良なのかまだ子猫だが、俺に声をかけるように鳴いた。


気がついたら周りは暗くなっていて、帰らないと…と俺は立ち上がり、ただただ家に向かって歩いて行くと、声をかけた子猫がとことこついてくる。止まると甘えるように足にすりつく。


俺はその子猫を持ち上げて抱きしめ、家に連れて帰っていた。

マンションはペット禁止だったが、そんなの気にもしなかった。


俺が部屋に入り座り込むと、子猫は俺の胸から逃げ、我が家に帰って来たみたいに部屋の中をウロウロする。


俺はもう涙が枯れていた。何もする気がおきずに膝を抱えるようにしなだれる。

すると服の袖が引っ張られた。子猫が面白がって俺にちょっかいを出したのだろうが、爪が服に引っ掛かって引っ張るみたいになったのだ。


でもまるでそれが、チャコに呼ばれているみたいで俺はつい口に出してしまった。


「チャコ−−−…」


すると子猫は嬉しそうにニャーと鳴いた。





「ネコみたいな彼女」を読んでくれてありがとうございます。


これはネコが死に際になると飼い主のもとを去るというのから思いつきました。


うちも猫を飼っていたんですが、1匹はそうでした。


生あるものが亡くなるというのはとても辛い事で、出来ればハッピーエンドがいいんですが…


どうしても暗くなってしまうという…(笑)


他にも「彼女」がつく短編を2つ思いついてますが、それもどこか暗いかも…。



まあ、気に入ってもらえたら何よりです。


反兎



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