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1話・ 凪重と電話とライフ

凪重 優 (なぎえ ゆう)は高校に入ってから毎日ろくでもない生活を繰り返りかえしていた。

「凪重!もう人に手を出すのはやめろと言っただろう!まだ懲りないのか!」

凪重はこの学校では大変な乱暴者、いわゆる“不良”だった。 自分に反抗したり気に入らなかったりしたら相手を殴り、顔の骨折を崩すまで殴り続けたりしていた。

おまけに未成年だというのにタバコを吸い、髪を金髪に染めては右耳にはピアスまでしていた。

毎日が暴力と乱暴の繰り返しで、楽しみひとつもない退屈な非日常を暮らしていた。

ほら、今日だって。

「お前いい加減にしろ!自分が退学になってもいいのか!」

そんなもの勝手にすればいいじゃないか。 別に誰も困るわけでもないし、自分だってそのほうがいいんだ。

それなら誰も困らない。そうだろ。

「じゃあ、そちらで勝手にしといてくださいよ。俺は別にいいんで」

「簡単に言うな!あのな、凪重!世界にはさまざまな子供がいてな・・・」

またその話だ。学校には行きたいのにいけない国の子供がたくさんいるんだ。

だからなんだよ。その餓鬼達の代わりに俺が行って何か変わるのか?あり得ないだろ。

またきれい事言うのか。もう聞き飽きたよ。

「じゃ、明日から俺こないんで」

「おい!話はまだ終わって・・」

だからもう聞き飽きたって。お前としゃべると気が狂いそうで困るんだよ。あー、苛々してきた。また吸たくなってきたな。タバコ。さっき吸ったばかりなのに。あのクソ教師が。余計なストレス増えさすなよ。

「優。また高本に叱られたの?」

後ろから高い声がしてとっさに振り向いたら、そこには優しそうな顔の髪の長い女性が立っていた。前髪を気にしているのか、手でいじりながら俺に話しかけていた。

「なんだ、ヤナエかよ。驚かすな」

「なんだとは何よ。さっき怒られていたくせに。あ、タバコ。体に悪いからやめなよ」

椎侍奈 ヤナエ。

この学校のアイドル的な存在。

美人で誰にでも優しく、頭もいい。いかにも漫画やアニメに出てきそうなやつだ。

面倒見もよくて、俺が喫煙者と知ってても誰にも言わずこっそり俺に注意してくれている。 俺にとっては“いい奴”の存在だった。

「うっせーな。別に俺はいいんだよ」

「またそんな事言って・・。いい男が台無しだよ。優知らないけどアンタ女子の中で結構モテるんだよ」

満開の笑みでこっちに二カッと笑った顔に少しドキッとなった。ああ、男はこれに惹かれるんだなとしみじみ思った。

「気持ち悪い嘘つくな。くだらねぇ」

「優相手に嘘つかないよ、バカ。 あ、もう部活始まっちゃう。じゃあね優」

「ああ、頑張れよ。あんま無茶すんなよ」

バイバイと元気に手を振る彼女を見ると少し自分の奥の隙間が埋まったような気がした。それと共に、自分の中の何かが抜けたような気もした。

俺はただあいつが羨ましいんだ。皆から愛されて、いつも笑顔で、幸せそうで。

本当に自分とは正反対の人間だと思う。俺があいつみたいに育っていたら今の俺はないのだろうか。もっといい奴になっていただろうか。

・・まさかな。

だって俺は俺だ。変わるはずかない。

現実は確かなんだ。そうなんだ。

変わるはずがないんだ。 ああ、そうなんだよ。


自分なんかが変れるわけがないんだ。

それを一番自分が知っているのに。




家の近くの コンビニで安い弁当を買って帰ろうとした時、急に優の携帯が鳴った。

誰だろうか? 自分にかける奴なんてほとんどいないはずだ。俺の携帯番号を知っているのはヤナエと実家だけだ。でもヤナエはまだ部活をしている時間で終わってるはずがない。実家も俺に電話なんて1回もあったことがない。あったとしても・・・いや、あり得ないか。

だとしたら誰だろうか。間違い電話だろうか。不思議ながらも優は相手の携帯番号を見た。すると、番号の上に"凪重 安信"と身の覚えのある名前が書かれていた。優の父親からだった。

何故、親父が俺の電話番号を知っているんだろう。実家から教えてもらったのだろうか。だとしても、俺と話さないだろうに。

仕方なく携帯をとり、‘はい’とでた。

すると向こうから低い懐かしい声がした。

『優か?俺だ。覚えているか』

いや、自分の父親ぐらい覚えているだろ。普通。

「ああ。親父だろ」

『相変わらずだな、お前も。もう一人暮らしには慣れたか。無理してないか」

珍しいな。親父が俺を心配するなんて。

何かいいことでもあったのだろうか。

「ああ・・まぁな。親父はなにかあったのかよ」

『ああ。俺は・・・・いや、そのうち分かるだろう。全部あの人に言っといたからな』

あの人? 一体誰のことだ?

おふくろか?でもおふくろは・・・。

「おふくろのことか?」

『あ・・いや、母さんは・・。まぁ、そのうちお前にもわかるさ。それじゃあな』

プツリと 電話が切れた。

結局・・親父は何が言いたかったんだろう。

おふくろと何かあったんだろうか。でも俺には関係ない。むしろ関わりたくもない。あんな自分勝手な女なんか。早くどっか行けばいいのに。そしたら俺は・・・もういいか。

携帯をポケットに直し、反対のポケットからタバコを取り出して火をつけようと思ったが、ライターのオイルがきれていた。

はぁ・・ついてねーな、俺。

そう思いながら、チッとし舌打ちをすると背後から小さな小学生の声がした。赤いランドセルと黒いランドセルを背負った子共が仲良く手を繋いで話していた。

餓鬼はいいよな。平和そうで。絶対俺みたいにはなるなよ。と思いながらその後ろを見送った。何処からか夕焼け小焼けの歌が聞こえたような気がした。













































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