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恋に落ちる瞬間



そっと右手を出すと、彼があたしの手を握ってくれる。

ちょっと前まで、すごくどきどきしていたけれど

最近はなんだかとても自然なことのように思えてきた


大きくて温かい手

彼の心みたいに


だけど


今は素直にそう思えるけれど、出会ったばかりの頃は彼のことが苦手だった。





あたしは理数系は全然ダメなんだけど、小さい頃から星を眺めるのが大好きだった。

だからこの天体観測サークルに入った。

望遠鏡で星をじっくり見たいと思って。

そしたら

ここの中心的人物が彼、理学部の宮藤慧太くんだった。



彼は基本的に無口、ただ天文に関してはすごく饒舌になる。

でも、彼の話はいつも数式やら理論やら、あたしには全くわからないことばかりで、正直、「この人とは合わないな」って思ってた。


無口だし

無愛想だし

いつも眼鏡をかけている顔は、なまじ整っているだけに

すごく冷たそうで




それが変わったのは数ヶ月前

調べたいことがあって、図書館からかなりたくさんの天文の本を借りてきたときだった。


天文関係の本はたいてい分厚くて重い。

それを何冊も持って歩くのはかなりの重労働だ。

あたしは背もあまり高くないから、前も見えづらい。

欲張っていろいろ借りすぎたかな、とちょっと後悔してたら

急に本が軽くなって、それと同時に視界が開けた。


そこに、本を持って立っていたのはあたしが苦手だと思っている宮藤くんだった。


「あ、あの・・・」


とっさに何と言っていいかわからなくて口ごもるあたしに彼は言った。


「男は女より筋肉量が多い。もちろん個人差はあるが、一般的にはそうだ、つまり、肉体労働をするのは女より男のほうが適している。これは古代から現在に至るまでずっと変わらない常識だ」

「・・・」


相変わらずどう反応したらいいのかわからない。


「つまり女がこれだけの重いものを持つというのは生物学的に適さない行動だ」

「はあ・・・」

「で、どこまで持っていくんだ、これ」


え?

ここに至ってようやく気付いた。

もしかして、あたしが重そうな本を持っていたから、手伝ってくれるつもりだったの?



あたしは今までこの人の何を見てきたんだろう。

無口で無愛想、それだけの人なんかじゃなかった。

本当は優しくて思いやりがあるのに、それを表現するのが下手なんだ。



あたしは彼の顔を見上げた。

目と目が合う。


初めて彼の瞳を正面から見つめた。

冷たそうに見えたのは眼鏡の反射のせい。その奥にある瞳はとても優しかった。


「じゃあ、部室までお願いします。それから」

「何だ」

「いろいろ調べたいことがあるんで、もし時間があったら手伝ってください」

「時間はつくるもんだ、じゃあ行くぞ」


さっさと歩き出した彼のあとを慌てて追う。

もう、相変わらずの自分ペースなんだから、って思ったけど。

それもまた彼らしくていいな、と思っている自分がいた。


たぶん、これがあたしが彼に恋してしまった瞬間。



つないだ手と手

あたしは彼の手を強く握った。


「どうした?」


彼があたしを見つめる。

今はあたしの大好きな優しい瞳で。

あたしも彼の瞳を見返す。


「大好き・・・」



                        END



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