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5.アガパンサス(その1)

停電事件の2日後、明け方に別れた翌日の午前10時ーーー


「flowery」の店内の人影は、久しぶりに複数になっていた。


「それでは改めて、本日からよろしくお願いいたします。」

「ああ、よろしく。……お願いします。」

「あ、お給料はちゃんとお支払いしますが、敬語は使わないで大丈夫です。私もおじさんから敬語はちょっと……。」

「分かった。」

「まずは、外の掃除から行きましょう。昨日は、配達だけになってしまったので、一昨日の雨と風の残りの片付けがまだ終わってなくて……。」

「待った。まず、履歴書とかそういうのはいいのか?」

「えっ?ああ、そうですね。じゃあ、一応書いてください。名前と住所と念の為、電話番号……。あ、経歴とか資格とかは書かなくて大丈夫です。」


店の奥から履歴書を発掘してきて、おじさんに記入をお願いする。

(あ、手書きフォントにしたい感じの字してる。)


「ありがとうございます。帰る前に『Amu』だけ教えてもらえると嬉しいです。」


『Amu』というのは、スマホのメッセージアプリ。メッセージ機能はもちろん、通話もビデオ通話やグループ通話ができる、使ってない人はいないくらいの定番のアプリ。


「あぁ。分かった。」

「それでは、改めまして。この店の娘で、従業員のケイです。よろしくお願いします。業務は、この店の経営と月曜日、木曜日の定期配達。水曜日が定休日ですが、今後の状況次第では他の日もお休みになるかもしれません。お店は、10時~19時。大体18時くらいから翌日準備とか片付けをしてます。基本忙しくなることは滅多にないので、やりながら都度お伝えしていきますね。というわけで、まずは掃除から始めましょう。」


停電するくらいだから、相当の雨だったのだろうと予想していたが、想像以上だった。結局、午前中いっぱいかけてテラスも含めて外の掃除をした。


午前中に来たお客さんは2人。

お客さんと言っても近所のおばさん達で、パパ達がまだしばらく戻ってこないことを伝えたら、帰り際に「またおかず持ってくるわねー。」って帰って行った。

(ちょっとおじさんのこと警戒してそうだったけど、気のせいかな?)


「お客さんもいないので、お昼休憩にしましょう!お米とおかず持ってきましたが、もし良ければどうですか?」

「え?いや、流石に。」

「あ、もしかしてお弁当持ってきてます?」

「持ってきてはないけど、お昼まで出してもらうのは悪いというか。」

「さっきのおばさん達みたいにおかず持ってきてくれるご近所さんが、ありがたいことに他にもいるんです。食べきれないと申し訳ないので、是非!」

「そういうことなら、いただきます。」

「じゃあ、いつも通りテラスへどうぞ。好きなだけ食べて来てください。」

「は!っ?」

「あ、ご一緒していいんですか?流石に休憩中まで一緒だと、嫌かなぁって思ってたんですが。」

「ここまでしてもらって、今更そんな事言わないよ。」

「そうですか。では、テラスで一緒に食べましょう!お客さんが来たら、私が対応しますので。」


テラスで一緒にお昼を食べて、店内に戻ってお店の説明をしていると高校生組がやってきた。


「ケイちゃーん!」

「そろそろゆりさん達帰ってくる!?」

「希々。ゆうちゃんも他にお客さんいるかもしれないから。」

「ケイちゃん、頼んでた漫画の新刊いつ?」

「こんにちはー。」


「「「え、誰!?」」」


「あ、みんないらっしゃい~。そんなに身構えてどうしたの?」


店の奥から顔を出すと、レジのおじさんの前で高校生組がまるで威嚇でもするように向き合っている。

けんくん、れおくんが、それぞれののちゃん、ゆうちゃんを庇うように前に立っている。みずきくんは入口付近で、難しい顔で睨みつけている。


「ケイちゃん!このおじさん誰!?」(ののちゃん)

「まさか彼氏なんて言わないよね!?」(ゆうちゃん)

「ゆりさんとおじさんは?知ってるの?」(けんくん)

「あんまりこんなこと言いたくないけど、恋人には年上過ぎると思う。」(れおくん)

「頼む、早めに説明してくれ。」


「待って待って!彼氏なんかじゃないから。このおじさんはパパ達が帰ってくるまで、お店を手伝ってくれることになったの!」

「ふーん。名前は?」

「名前!?えーっと……」


チラ見した履歴書には確か……名字は「碧依」。あおい? へき? みどり?……読めない。下の名前は、ええと「京佑」。

(……あ、「けい」に「すけ」で、ケイスケさんだ!)

「そう、ケイスケさんです!」

「ゴホッ!?」

おじさんが盛大にむせた。けれど、キラキラした目で私を見る高校生たちを前に、彼は何かを諦めたようにスッと視線を逸らした。

「……あぁ。よろしく」

「ケイスケさんね、了解!」(ののちゃん)

「よろしく、ケイスケさん。」(ゆうちゃん)

「おじさん、よろしくお願いします。」(けんくん)

「ケイスケさん。うーん...よろしく、おじさん。」(れおくん)

「ケイスケさん……おっさん」(みずきくん)

みずきくんだけが、どこか納得いかないような、苦いものを噛み潰したような顔でおじさんを睨んでいる。


「とにかく。パパ達が帰ってくるまでのしばらくの間、ケイスケさんにお店を手伝ってもらうのでみんな仲良くしてね。」


納得したのか、思い思いのお菓子を買って高校生組はテラスへ移動して行った。


「すみません……。あの子たちは坂の上の高校生達です。みずきくん以外はみんなこの辺の子なので、バスを使わない組で、仲良くしてます。みんな可愛い妹弟みたいなんです!学校のある日は、大体毎日この時間に来ます。」

「了解した。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

(わ、若さと好奇心の暴力が、凄かった……)

台風のような勢いの高校生組がテラスでお菓子タイムを満喫して帰宅した18時半頃ーーー。


最初に聞いていた通り、徐々に閉店の準備をしていると、本日2度目の台風がやってきた。


「ケイ!来たわよ!!さっさと紹介しなさい。」

「綾さんっ、お客さんがいる場合もあるから、もう少し静かに。」


勢いよく開いた扉と共に、凄い勢いで女性がレジにやってくる。その後ろをオロオロと着いてくる男性と合わせて見覚えがあることに気づいた。

(確か……診療所の)


バンッーーー

「あんたね!うちのケイと一晩過ごした男ってのは!」

「は?」

「綾さん、急すぎだよ。相手も困っちゃうから。」

「えーっと……」

「あっ、綾ちゃん、宗ちゃん、いらっしゃい~。早かったね。」

「当たり前でしょ!それより早くそこのおじさん紹介しなさい!!」

「はいっ。えっと、こちらケイスケさんです!」

「他には?」

「え?」

「ケイちゃん、流石にお名前だけだとどんな人か僕ら分からないから……。」

「なるほど……。春頃からお昼に来てた常連さんです。」

「あー……もう。ケイスケさんだっけ?テラスでお話し聞いてもいいかしら?ケイ、この人借りるわよ。」

「?うん、どうぞー。私はお店閉めたら行くね。ケイスケさん、すみません。綾ちゃんと宗ちゃんについてってください。」



「で、正直なところうちの子どういう関係?」

「綾さん、まずはこっちの自己紹介からしょう。ね?」

テラスに着くなり、詰め寄られた。尋問を受ける証人の気分だ。


「それもそうね。初めまして、平井綾乃です。そしてこっちが、」

「初めまして、平井宗司です。」

「あ、無事に入籍されたんですね。おめでとうございます。」

「えっ!?えーっと、どこかでお会いしましたか?」

「あー、4月の終わりに診療所でお世話になりました。ちょうどご結婚されると受付で報告されてて……。」

「あー!!あの時の!?」

「なるほど、それは失礼しました。」

「いえ。それでお聞きになりたいのは、一昨日彼女と何があったか?ということでよろしいですか?」

「そうです、それそれ!あの子の話じゃ全然要領得なくて……。」

「それじゃあ、3日前から話そうかーーー。」

3日前の大学生たちとの件から順番に話した。もちろん下着まで出てきたことなどは伝えてない。


「~~~本当にすみませんでした!」

「なんて言うか……ありがとうございました。」

思った以上に、2人に色々伝わっていないことが発覚した。

「ところで、えーっとケイスケさん?どの辺住んでるんです?この辺に人が越してきたって話聞かないですけど。」

「あー、ちょうど診療所の日に実家に帰ってきてて……分岐を左に行ったガレージです。」

「へぇー。どおりであんまり見かけない人だと。」

「えっ?分岐のガレージ!?じゃあ、あなたが……あれ?……あー、なるほど。」

「ん?どうかしたか?」

「いえいえ、既に苦労してるんだなって。」

「は?」

「あなたが泉さんとこの弟さんなんだなって思っただけ。」

「!?」

「診療所には、色んな話が入ってくるんですよ?あと、田舎は耳が早いので!」

「綾さん、どういうこと?」

「宗司には帰ったら話すわ。」

「はぁ。」

綾乃さんは、よし!と言わんばかりに立ち上がり、大きく伸びをした。

「何かあったら泉さんに伝えるから。大丈夫ですよね?ケイスケさん?」

「何も無いから、心配しないでくれ。敬語もいらない。」

「OK!じゃあこれからよろしくお願いします~。ケイー、私ら帰るわ。」

丁度いいタイミングで、店の鍵を閉めた彼女がやってきた。

「えー、ご飯一緒に食べないの?」

「明日早めに行かなきゃなのよ。ケイスケさんにご一緒してもらって?」

「そっか……。じゃあまたね。」

「!?」

(俺の意見はどこへ……?)

「じゃあ、2人ともおやすみなさい。ケイスケさん、これからよろしくお願いします。……ちょっと、綾さん先に行かないで!」

置いていかれた宗司さんが、軽いお辞儀をして駆け足で追いかけて行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

floweryを後にして、宗司と並んで歩きながら『Amu』でとあるアイコンを探していた。

そしてバイクのアイコンを見つけた。


Ayano:お久しぶりですー。今日、floweryでボサボサ髪に色眼鏡の男性に会ったんですが、噂の弟さんですよね?


泉:綾乃ちゃん、久しぶりー!結婚したんでしょ?おめでとう!!今度お祝いしに行くね。


泉:それで、京佑に会ったの?昨日、帰ってきたと思ったら嘘みたいな話してたけど、本当にあそこで働くのね。迷惑かけたらごめんね。


Ayano:むしろ早速うちの妹達が振り回してるみたいで、私達としては保護者役が増えたみたいで嬉しいです!子供達は、ケイスケさんって呼ぶことにしたみたいです。大方、ケイが苗字を読めないか思い出せなかったんでしょう……。


Ayano:結婚式周りがちょっと面倒で、頻繁には様子見に行けなさそうで心配だったんですが、安心できそうです!じゃあまた今度、ゆっくりお話ししましょうね!



「綾さん。行く前より大分穏やかだね。彼のこと信用できたんだ。」

「ええ、どこの誰かも分かったし。何より、アイツ私達側だから。」

「確かに。僕達が見れない間くらいは、ケイちゃん達を任せられそうだね。」


思いがけず保護者仲間を確保した2人の会話は、夜空の月だけが聞いていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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