第9話 人的確認を要しない段階 [業務記録] 当該年度において、表示最適化工程の自動化率が基準値を超えた。
九年目に入った頃、
朝の業務開始通知が変わった。
以前は、
「本日の案件一覧」が表示されていた。
今は、
こう書かれている。
「確認対象:少数」
少数、という言葉に
具体的な数はなかった。
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実際、
画面を開いても
処理すべき案件はほとんどない。
多くの項目には、
すでに判定結果が表示されている。
自動判定:適切
再確認:不要
私は、
それを一つずつ確認する。
確認、というより、
眺めているだけに近い。
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後輩が言った。
「最近、
チェックする前から
結果が分かりますよね」
「そうだね」
「自分でやる意味、
ありますかね」
冗談めいた口調だった。
私は、
すぐには答えなかった。
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意味がない、とは思わない。
確認する人がいる、
という事実は、
安心につながる。
少なくとも、
そう説明されてきた。
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だが、
説明は更新されている。
資料には、
こう書かれていた。
・人的確認と自動判定の一致率:九十九点九%
・差異発生時の影響:軽微
・再発防止策:自動修正済
最後に、
小さな文字で。
「人的確認は、
心理的安心感の提供を
主な目的としています」
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昼休み、
食堂はいつも通りだった。
誰も忙しそうではなく、
誰も暇そうでもない。
同僚が言う。
「最近、
仕事、軽くなりましたよね」
「そうですね」
「いいことですよね」
それは、
確認を求める言い方ではなかった。
答えは決まっている。
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午後、
新しい通知が届いた。
「表示最適化業務について、
一部工程を自動統合します」
統合、という言葉は
柔らかかった。
削減でも、
廃止でもない。
整理、に近い。
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自分の業務ログを見る。
確認件数:基準値以下
判断介入:不要
評価は、
「安定」。
悪くない。
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帰宅後、
時間が少し余った。
何かをしようとして、
何もしなかった。
理由はない。
理由のない時間は、
以前より増えている。
だが、
不安はなかった。
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翌日、
正式な共有があった。
「現在の精度において、
人的確認は
必須工程ではありません」
続けて、
こう補足された。
「ただし、
段階的な移行とします」
段階的、という言葉は
安心を含んでいる。
急ではない。
問題もない。
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後輩が言った。
「僕ら、
いい時期に入りましたよね」
「そうだね」
私は頷いた。
仕事が減ることを、
誰も不安に思っていない。
減るのは、
無駄な負荷だ。
そう理解している。
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帰り道、
空を見上げる。
天気は安定している。
明日の予定は、
すでに表示されている。
確認対象は、
おそらく今日より少ない。
それは、
良いことだ。
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[年度総括]
当該年度において、
人的確認工程は
十分な役割を果たした。
自動化への移行は順調であり、
運用上の問題は
確認されていない。




