第8話 例外処理の整理 [業務記録] 当該年度において、手動例外対応の見直しが実施された。
八年目になると、
「今回は特別」という言葉を
ほとんど聞かなくなった。
使われなくなった、というより、
使う場面がなくなった。
業務画面には、
標準処理のフローが表示されている。
その下に、
以前は小さく折りたたまれていた項目。
例外処理(手動)
今は、
最初から表示されていない。
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今回の案件は、
その「例外処理」自体の整理だった。
対象は、
過去に人の判断で
基準から外されたケース。
「今回は状況が特殊だった」
「前例が少ないため」
「一時的な対応として」
そうした理由で、
手動判断が行われていた。
だが、
それらはすでに分析され、
平均化され、
基準に取り込まれている。
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資料には、こうあった。
・例外発生率:低下
・手動判断の再現性:低
・自動判定との差異:軽微
最後に、
いつもの一文。
「再表示の要望:なし」
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後輩が画面を見て言った。
「これ、
もう人が触らなくても
大丈夫なんですね」
「そうだね」
私は答えた。
「ほとんどの場合、
機械の判断と同じだった」
それは事実だった。
過去数年、
自分が「例外」として
手動で処理した結果は、
後から自動判定に吸収されている。
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判断基準を確認する。
例外は、
判断を難しくする。
難しい判断は、
ミスの温床になる。
ミスは、
安心を損なう。
「表示必要性:低」
チェックを入れる。
非推奨。
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昼休み、
後輩が言った。
「この仕事、
もう全部自動で
いけそうですよね」
軽い口調だった。
冗談でも、
不安でもない。
単なる感想だ。
「そうかもね」
私は、
それ以上の言葉を足さなかった。
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帰宅後、
一日のログを見る。
手動介入:なし
自動判定一致率:九十九点八%
数値は、
良好だった。
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夜、
少し時間が空いた。
何か、
例外的なことを
したい気がした。
だが、
何をすれば
「例外」になるのか
思いつかなかった。
例外は、
基準から外れること。
今の基準は、
かなり広い。
ほとんどの行動が、
その中に収まる。
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翌日、
正式な通知が届く。
「手動例外処理は、
原則として廃止します」
補足には、
こう書かれていた。
「すでに運用上の必要性は
確認されていません」
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後輩が言った。
「楽になりますね」
「そうだね」
その言葉に、
違和感はなかった。
楽になる、というのは、
改善の証拠だ。
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帰り道、
ふと立ち止まりかける。
理由はない。
理由のない行動は、
今では選ばれにくい。
私は、
そのまま歩いた。
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[年度総括]
当該年度において、
例外処理の整理は
計画通り完了した。
判断の一貫性は向上し、
運用上の問題は
確認されていない。




