第7話 個別判断のばらつき [業務記録] 当該年度において、判断基準の統一化が推進された。
七年目になると、
会議が短くなった。
議題はある。
資料もある。
だが、確認事項が少ない。
「基準は、こちらで問題ありません」
誰かがそう言うと、
他の誰も反対しない。
反対できない、というより、
反対する理由が見つからない。
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今回の案件は、
個人差の大きい判断についてだった。
同じ項目に対して、
人によって「表示」「非表示」の
判断が分かれるケース。
どちらも、
規定違反ではない。
だが、
結果にわずかな差が出る。
その差が、
「ばらつき」と呼ばれていた。
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資料には、こう書かれている。
・判断結果の再現性が低下
・説明コストが増加
・利用者体験に一貫性がない
一貫性は、
重要な指標だった。
同じ条件なら、
同じ結果が返る。
それは、
安心につながる。
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「今後は、
この部分を統一基準に寄せます」
担当者が言う。
画面に表示されたのは、
平均値を元にした判断ライン。
突出した判断は、
自然に外れる。
私は、その基準を見て、
違和感を覚えなかった。
むしろ、
分かりやすいと思った。
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後輩が小声で言った。
「これで、
迷わなくて済みますね」
「そうだね」
返事は自然に出た。
迷わなくていい、というのは、
悪いことではない。
迷いは、
時間を消費する。
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実際、
業務は楽になった。
確認項目は減り、
判断は速くなる。
自分の判断が、
他の人と一致していることを
確認する必要もなくなった。
一致している前提だからだ。
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昼休み、
いつもの席で食事を取る。
向かいの同僚が言った。
「最近、
判断が被りますよね」
「そうですね」
「安心します」
安心、という言葉が
少し印象に残った。
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帰宅後、
一日のログを見る。
判断一致率:高
例外発生:なし
高い一致率は、
評価項目の一つだ。
私は評価が安定している。
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夜、
何気なく昔のメモを探そうとして、
やめた。
探しても、
今の業務には必要ない。
今の基準に従っていれば、
問題は起きない。
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翌日、
正式な通知が届いた。
「個別判断によるばらつきを抑制するため、
基準の統一化を行います」
最後に、
こう付け加えられていた。
「判断の質は、
全体として向上しています」
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後輩が言った。
「これ、
自分で考える部分、
減りましたね」
私は少し考えてから答えた。
「その分、
間違えにくくなった」
それは、
本心だった。
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帰り道、
人の流れに合わせて歩く。
速すぎず、
遅すぎず。
誰かとぶつかることもない。
私は、
自分の歩き方を
意識していなかった。
他の人と
同じ速度だったからだ。
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[年度総括]
当該年度において、
判断基準の統一化は
計画通り進行した。
業務負荷は低下し、
判断の安定性は向上している。
特筆すべき問題は
確認されていない。




