第4話 再表示の要望は確認されていません [業務記録] 当該年度において、問い合わせ表示基準の再整理が行われた。
四年目になると、
業務画面に表示される説明文が
以前より短くなっていた。
理由は明示されている。
利用者が最後まで読まないため
それだけだった。
今回の案件は、
問い合わせフォームに関するものだった。
対象は、
理由を伴わない質問。
「なんとなく」
「特に理由はないけど」
「念のため確認したい」
そうした前置きから始まる問い合わせが、
徐々に減っている。
減っている、というより、
途中で送信されなくなっている。
下書きのまま、
完了しないケースが増えていた。
資料には、こう書かれていた。
・内容が具体化されない
・対応分類が困難
・満足度改善への寄与が低い
そして、最後にいつもの一文。
「再表示の要望:なし」
誰も、
「この質問がしたい」とは言っていない。
判断基準を確認する。
理由が明確でない問い合わせは、
回答を得たあとも
納得に至らない可能性がある。
納得に至らない、という状態は、
次の質問を生む。
質問が連鎖することは、
安定を損なう。
安定は、
最適化の前提条件だ。
「表示必要性:低」
私はチェックを入れた。
非推奨化。
業務を終え、
給湯スペースで飲み物を取る。
同僚が言った。
「最近、問い合わせ減りましたよね」
「そうですね」
「楽になりました」
その言い方に、
含みはなかった。
楽、という評価は、
処理量と比例している。
帰りの電車で、
ふと考える。
最近、
自分は何かを質問しただろうか。
分からないことがあれば、
端末を見ればいい。
理由がある問い合わせは、
最初から整理されている。
理由のない疑問は、
疑問の形になる前に消える。
消えた、という感覚はない。
ただ、
思いつかなかっただけだ。
自宅に戻り、
一日の記録を確認する。
問い合わせ対応:不要
判断負荷:低
問題はない。
夕食後、
テレビのような表示を眺めながら、
何かを聞こうとした。
何を聞こうとしたのかは、
はっきりしない。
「今日は、どうだった?」
そう聞こうとして、
やめた。
聞かなくても、
数値はすでに出ている。
翌日、
基準更新の通知が届いた。
「理由を伴わない問い合わせについては、
今後、表示対象外とします」
補足として、
こう書かれていた。
「必要な確認は、
適切な形式で引き続き可能です」
適切な形式、という言葉に
具体性はなかった。
だが、
不安もなかった。
通勤途中、
ふと立ち止まりそうになる。
なぜ立ち止まろうとしたのか、
理由は分からない。
理由が分からない行動は、
今では選ばれにくい。
私は、
そのまま歩いた。
[年度総括]
当該年度において、
問い合わせ表示の最適化は
計画通り実施された。
利用者対応の効率は向上し、
新たな問題は確認されていない。




