第3話 利用頻度が低下しています [業務記録] 当該年度において、行動目的未定義項目の再評価が実施された。
三年目に入った頃から、
業務にかかる時間が短くなった。
判断が早くなった、というより、
確認する項目が減った。
画面を開くと、
今日の案件が静かに並んでいる。
その中に、
少し長めの説明文があった。
対象項目:目的のない歩行行動
注釈には、こう書かれていた。
・移動目的なし
・運動目的なし
・明確な到達点なし
行動ログ上では、
「散歩」と分類されている。
利用頻度は、年々低下していた。
「代替行動:運動プログラム、最適化移動」
再表示の要望は、やはりなかった。
判断基準を確認する。
目的が定義されていない行動は、
満足度のばらつきが大きい。
同じ行動でも、
良かったと感じる人と、
意味がなかったと感じる人がいる。
ばらつきは、
最適化の妨げになる。
「表示する必要性:低」
私は画面を一度だけ見返し、
チェックを入れた。
非推奨リストへの追加。
特別な理由はなかった。
昼休み、
外に出る時間があった。
天気は悪くない。
だが、外に出る理由はなかった。
近くの屋内スペースに座り、
表示された飲み物を受け取る。
味は問題ない。
同僚が向かいに座った。
「最近、案件が楽ですね」
「そうですね」
それ以上の感想は出なかった。
楽、という言葉に
良いも悪いも含まれていない。
単に、負荷が低いという意味だ。
その帰り道、
ふと足が止まりかけた。
理由は分からない。
端末は、
すでに最適な経路を示している。
それに従えば、
迷わず帰れる。
一瞬だけ、
表示を閉じようとした。
だが、閉じなかった。
閉じる理由がなかった。
学生の頃、
意味もなく歩いた記憶がある。
思い出そうとすると、
場所も、距離も、はっきりしない。
ただ、
歩いていた、という感触だけが残っている。
その行動に、
何の目的があったのか。
当時も、
説明できなかった気がする。
説明できない行動は、
今では記録しにくい。
自宅に着き、
一日のまとめを見る。
行動分類:安定
未定義行動:検出なし
問題はない。
ベッドに横になり、
少しだけ考える。
もし、
「目的のない散歩」が
表示されなくなったとして。
誰かが困るだろうか。
おそらく、困らない。
運動は、
別の形で提案される。
移動は、
必要なときに行われる。
散歩という言葉がなくても、
生活は成り立つ。
翌週、
基準更新の通知が届いた。
「行動目的が定義されない歩行については、
今後、表示対象外とします」
了承ボタンを押す。
迷いはなかった。
帰り道、
夕方の街を歩く。
空は明るく、
人の流れは一定だった。
私は、
どこかに寄りたいとも、
寄りたくないとも思わなかった。
ただ、
表示された方向へ進む。
歩いている、という実感はある。
だが、
それが何のためなのかを
考える必要はなかった。
[年度総括]
当該年度において、
未定義行動の表示最適化は
計画通り実施された。
生活への影響は確認されておらず、
運用上の問題は発生していない。




