第2話 非推奨リストへの追加 [業務記録] 当該年度において、表示最適化基準の一部が更新された。
配属から一年が経った。
研修という言葉は、もう使われない。
業務は日常の一部になっていて、
特別に意識することもなく処理できる。
画面を開くと、今日の案件が並んでいた。
数は多くない。
その中に、
「移動経路に関する表示最適化」という項目があった。
内容は単純だった。
目的地に到達するまでに、
複数の経路を提示していた表示を整理する。
最短経路、もしくは満足度の高い経路のみを残す。
回り道を含むルートは、
利用率が低下している。
「再表示の要望:なし」
いつもの文言だった。
理由も、すでに添えられている。
・到達時間のばらつき
・迷い時間の増加
・満足度への寄与が低い
私は内容を確認し、
基準表と照合する。
問題はなかった。
非推奨リストへの追加。
チェックを入れる。
処理は数分で終わった。
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昼休み、同じ部署の人と並んで歩いた。
会話は特になかったが、
気まずさもなかった。
建物を出ると、
端末が自然に次の移動を示す。
「最適経路を表示します」
表示されたのは、
まっすぐで、分かりやすい道だった。
以前は、
川沿いを通るルートや、
少し遠回りになる道も表示されていた気がする。
そう思ったが、
その記憶が正確かどうかは分からない。
確認する理由もなかった。
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帰り道、
ふと、昔のことを思い出した。
学生の頃、
意味もなく歩くことがあった。
どこに行くわけでもなく、
ただ、曲がり角を選んで、
結果的に遠くまで来てしまう。
そういう歩き方。
懐かしい、という感情はなかった。
ただ、そういう行動様式が
あったような気がしただけだ。
今は、歩く理由が明確だ。
移動、運動、用事。
理由がある方が、楽だ。
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自宅に着くと、
端末が一日のまとめを表示する。
業務処理件数:基準値内
判断速度:向上
再確認要否:なし
特に問題はない。
食事の後、
少し時間が余った。
何をするか考える前に、
端末が提案を出す。
「休息を推奨します」
それに従い、
ソファに座って画面を閉じた。
考えなくていい時間は、
思っていたより快適だった。
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翌日、
新しい基準についての短い共有があった。
「回り道を含む経路表示は、
今後、原則として行いません」
誰も質問しなかった。
理由は、
すでに全員が理解している。
必要とされていないものを、
わざわざ見せる必要はない。
それだけのことだ。
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仕事を終えて、
建物を出る。
表示された経路に従って歩く。
迷うことはない。
ふと、
別の道を選ぶという発想が
浮かばなかったことに気づいた。
だが、
気づいただけだった。
困ってはいない。
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[年度総括]
当該年度において、
移動経路表示の最適化は
計画通り実施された。
利用者満足度に影響はなく、
運用上の問題は確認されていない。




