第10話 当該職務は統合されました [業務最終記録] 当該期間において、表示最適化業務は予定通り再編された。
十年目の通知は、
朝の業務開始前に届いた。
件名は簡潔だった。
表示最適化業務の統合について
内容も、短い。
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現在の運用精度および自動判定の安定性を踏まえ、
当該職務は他工程と統合されます。
人的判断を要する場面は確認されておらず、
業務品質への影響はありません。
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画面を閉じて、
私は一度だけ椅子にもたれた。
特別な感情は湧かなかった。
驚きも、
残念さも、
安堵もない。
ただ、
「そうなったのか」と思った。
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午前中の業務は、
いつも通りだった。
確認対象は、
ほとんど表示されない。
自動判定:適切
再確認:不要
それが並んでいる。
私は、
それを順に眺め、
確認完了を押す。
押す必要があるのかどうか、
少し考えたが、
考えるのをやめた。
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昼前、
簡単な説明会があった。
形式的なものだ。
「これまでのご尽力に
感謝します」
上司はそう言い、
次の配置先の一覧を表示した。
新しい職務名は、
少し長い。
内容は、
今までと大きく変わらない。
違うのは、
「削除判定」という言葉が
どこにも書かれていないことだけだ。
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後輩が、
少しだけ小声で言った。
「終わり、ですね」
「統合だよ」
私はそう返した。
訂正というほどではない。
言い換えだ。
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帰宅途中、
端末が振動する。
新職務に関する案内を表示しますか
了承を押す。
画面には、
整理された説明文。
目的。
役割。
評価基準。
どれも、
理解しやすい。
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ふと、
自分がこれまで
何をしてきたのかを
思い返そうとした。
思い返す必要はない、
という感覚が先に来た。
評価はすでに終わっている。
問題はなかった。
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自宅に着き、
一日のまとめを見る。
最終年度評価:安定
業務適合度:高
再配置:完了
特に付記はない。
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夜、
ベッドに横になる。
天井を見ながら、
ほんの一瞬だけ、
言葉を探した。
削除。
非推奨。
整理。
どれも、
今の職務説明には出てこない。
必要がなくなったのだろう。
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端末が、
最後の通知を表示する。
当該期間において、
表示最適化業務は
一貫して安定して運用された。
社会的影響は確認されておらず、
利用者満足度は基準値を維持している。
特筆すべき問題は確認されていない。
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私は、
その文章を読み、
画面を閉じた。
間違いはなかった。
誰も困っていない。
何かが失われた、
という感覚もない。
それで十分だ。
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翌朝、
新しい業務開始通知が届く。
私は、
表示された通りに起き、
表示された通りに準備をし、
表示された通りに家を出た。
通勤経路は、
最適だった。
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[年度総括]
当該職員は、
全期間を通じて
職務を適切に遂行した。
業務統合後も、
特別な対応は必要とされない。
本件について、
問題は確認されなかった。




