・第九話
装甲車は、見た目の物々しさに反して揺れも少なく、随分と快適な乗り心地だった。
ルシアは握りしめた拳を開かずに、黙って車内に佇んでいた。恐らくはかなりの速度で走っていると思われるが、特に脚を踏ん張ることも無く立っていられるのは、やはりこの車が高性能なのだろう。ルシアは黙って佇んでいた。
「おい」
声がする。
三人のうちの一人、どうやらこの『傭兵団』のリーダーらしい青年だ。どういう訳か銃では無く刀を手に、刀身を磨いている。随分と落ち着き払った様子で車両の後部に腰を下ろしている、刀を磨いている仕草や雰囲気は優雅にすら見える。
その青年が、じろりとルシアを睨みつける。
「いつまで突っ立っているつもりだ?」
青年が言う。
「……な 何が来ても、対応できるように……」
ルシアはおずおずと言う。
「この車の装甲は、俺が特殊設計した自信作だよ」
ははは、と。
装甲車の運転席に座る青年が、軽い口調で言う。こちらに背を向けているせいでその顔は見えないが、きっとその顔にはにやついた笑みが浮かんでいるのだろう。
「例え機銃を撃たれたって……」
そう運転席の青年が言いかけた時だった。
けたたましい警告音が、突如として鳴り響いた。
「ひっ!?」
ルシアは声を上げた。
「何事だ?」
リーダーの青年が、刀から顔を上げ、運転席の青年に問いかける。
「……早速おいでなすった様だぜ」
くくく、と。運転席の青年が楽しそうに笑う。
そのままカタカタと青年が運転席の操作盤を操作する、同時に、ぴ、と電子音が響き、運転席横の操作盤に設置されたモニターに何かが映る。
「ヘリ……」
ルシアは蒼白な顔で呟く。黒いヘリ、その機体の下部には機銃が取り付けられ、それは真っ直ぐにモニターの方、つまりはこの車に向けられていた。そのまま機銃が放たれ、オレンジ色の光が閃いた。
「い いやあっ!!」
ルシアが悲鳴を上げる。
「騒ぐな」
リーダーの青年がぴしゃりと言い放つ。それと同時にがききききっ!! と甲高い金属音が響く。
「うう……」
ルシアは小さい声で呻く。さっきまで何の振動も無かった車内に、微かながらも振動が伝わって来る。
「ど どうすれば……」
ルシアは呻くように言う。
「黙って座ってろ」
リーダーの青年が言う。
「そ そんな……だってあれは……」
ルシアが不安そうに言うが、リーダーの青年はそれ以上は何も言わず、ずっと黙っていたもう一人の青年に向き直る。
「落とせるか?」
「問題は無い」
リーダーの問いに、そのもう一人の青年。ずっと黙り混んで、黙々と長い銃身の、ライフル銃、というのだろうか? その銃身を磨いていた青年に向かって言う。
「あの機銃なら、そうだな……あと十秒ってところか」
運転席の青年が言う。
「……十分だ」
青年は言いながら銃を担ぎ上げる。
やがて響いていた金属音が止まる。その青年はその瞬間に動き出す。
ゆっくりと立ち上がると同時に、運転席の青年が操作盤を叩く。
うぃい、んと音が響き、天井がゆっくりと開いていく。
青年は銃を構え、ゆっくりと天井から顔を出した。
ごうごうと、風が吹き付ける。
愛用のライフル銃を構え、スコープを覗き込む。ヘリは一機、分厚い、恐らくは防弾ガラスに阻まれてコクピットの中は見えないが……
あの機体の大きさならば、操縦者は一人だろう。車体には何処の国籍かを示すものは何も見当たらない、じっくりと調べれば見つかるかも知れないが、残念ながら今はそんな余裕は無い。それに……
何処の国に所属していようと関係ない。自分達の任務はあの少女を無事に『レオネ国』に送り届ければ良いのだ。急がないと再び機銃斉射が再開されてしまう。
スコープを覗き込みながら。
銃の引き金に指をかける。
自分は。
『死霊』。
『標的』に死を与える。
余計な事を考える必要は無い。ただ……
ただ、引き金を引けば良い。
そして確実に『標的』を仕留め。
自分達の勝利に貢献する。
思いながら……
『死霊』。
フリードは、引き金を引いた。




