・第七話
「和平なんて話は聞いた事が無いがね」
ややあってフリードが言う。
『それは当然さ、和平交渉、正確に言えばそれに向けての話し合いは両国の首脳の間だけで極秘裏に行われてきた、君達がどれほど優秀なのかは知らないが、簡単に傭兵達に知られたりはしないさ』
アルソンは言う。
『そして今回、ようやくレオネ国との和平交渉にこぎ着けた、というわけさ。そこで君達にはその交渉人の護衛をお願いしたい』
ディナルは何も言わない。筋は通っているし、嘘をついているという雰囲気もない。
だが……
「我々の評判は、ご存じでしょう?」
ディナルは問いかける。
アルソンはその言葉に、ほんの一瞬眉をぴく、と跳ね上げた。
『金次第で、どちらの国にも味方する、と?』
アルソンは言う。
「そういう事です、そんな我々に、それほど大切な『使者』の護衛をお願いする理由をお伺いしても?」
『金次第でどちらも味方をする卑怯な傭兵団、『亡霊』、その噂は知っているさ』
アルソンは言う。
『だが裏を返せば、君達は金を払いさえすれば確実に味方をしてくれる。そして君達の任務の達成率は、今やどの傭兵団よりも優れたものだ』
アルソンはじっとディナルを見る。
『それとまあ、もう一つ付け加えるのならば君達に興味があったのだよ。このご時世に信念も、誇りも無視して、金払いの良い方に味方をするという君達に、ね』
アルソンは穏やかに笑う。
誰も何も言わない。沈黙だけが室内に流れる。
『で?』
アルソンが言う。
『お引き受け頂けるのかな?』
ジャックとフリードは、ディナルの顔を見る。
ディナルは軽く目を閉じた後、ゆっくりと目を開く。
「良いでしょう、お引き受けいたします、それで……」
ディナルはじっとアルソンの顔を見る。
「『使者』というのは、どなたなのです?」
ディナルが言うと、アルソンは穏やかに笑った。
『引き受けてくれて感謝するよ、では早速『使者』を呼ぶとしよう。おい』
アルソンは、横を向いて言う。
『はい』
ややあって。
離れた場所から甲高い声がする。そして靴音を響かせながら誰かがモニターの前に歩み寄って来る。
『紹介しよう』
アルソンが言う。
『彼女が『使者』だ』
全員がモニターを見る。
そこに立っていたのは……
「女?」
フリードが小さく呟いた。
「これはまた……」
ジャックがにやついて言う。何がそんなに嬉しいのか、ディナルには何となく想像がついたけれど何も言わなかった。
黙ってモニター前に立つ少女を見る。
十代半ば、という年齢だろうか? やや赤みがかった黒い髪を肩の辺りまで伸ばした少女だ、大きな瞳と優しげな顔立ちのせいで、見た目よりもさらに幼く見える。
『こちらが我が国の『使者』だ。ルシア』
アルソンが少女に向かって言う。
少女は、モニター越しに三人に向かって頭を下げる。
『ルシア、と申します、このたび『エイブ国』と『レオネ国』との和平の為の『使者』として選ばれました』
少女はじっとモニターを見て言う。
その表情からは、芯の強さが窺える。
『危険な任務、だと思いますが……どうかお願いします』
「危険な任務、ね」
ディナルが言う、モニターの向こうでアルソンが頷く。
『生憎と、『和平』に反対する者達も少なからずいるからね』
アルソンが告げた。
『そういう者達が、彼女に対して何をするか解らない、という事さ』
その言葉にディナルは頷く。
「承知しました」
ディナルは頷く。
「彼女を必ずお守りし、『レオネ国』までお連れしましょう」
その言葉に、アルソンは頷く。
『よろしくお願いするよ、首尾良く任務を果たせたらその時には報酬をお支払いする』
アルソンはにっこりと笑う。
ディナルは笑う事無く、黙って少女を、ルシアを見ていた。
『出発は明朝九時、『外交』の使者として、ささやかながら彼女を送り出すパレードを開こうと思っていてね、君達も良かったら参加しないか?』
「決行だ、我々は街の外で待つ」
ディナルは淡々とした口調で告げると、そのまま通信を切った。




