・第六話
エイブ国、外交担当大臣、アルソン。
外交を纏められた事の無い無能な大臣。
会議に出席すれば空気の読めない発言を繰り返して相手の心証を悪くさせ、逆に戦争のきっかけを作ってしまう。
全く役に立たない『昼行灯』。それがこの男……アルソンという人間だ。
「どうもお待たせしましたね、アルソン外交大臣」
ジャックがへらへら笑いながら言う。実際の外交の手腕はともかくとして金払いは良いだろう。この『亡霊』の中で一番金にがめついのは間違いなくこのジャックだ。それ故に表情も緩んでいるのだ。
『構わんよ』
男がモニターの中で、穏やかに微笑んで言う。その表情は何処にでもいる普通の老人だ。
だが少なくとも一国の外交大臣である以上は、それなりの敬意を持って接するべきだろう。ディナルは居住まいを正し、恭しく一例する。
「アルソン外交大臣におかれましては、ご機嫌麗しく」
ディナルが一礼すると、横でフリードもそれにならう。その一方ジャックはまだへらへらとしていた。
『そう畏まらなくても良い、こちらは君達に『仕事』を『依頼』する立場なのだからね』
ふふ、と。
アルソンが笑う。
ディナルは何も言わない。ただ黙って。
黙って、アルソンの温厚な笑顔を見ていた。
『それで』
アルソンが温和な笑みを浮かべたままで言う。
『君達が噂の、『亡霊』で良いのかな?』
「はい」
ディナルは頷く。
『そうか、そうか』
アルソンは満足そうに頷きながら、ディナルの顔を見る。ディナルが黙っていると、その視線がすぐに離れ、横にいるフリードを見、次いでジャックにも視線を向ける。
『ふむふむ、噂通りに随分と強そうだ。君達の評判は聞いているよ』
アルソンがまたふふ、と笑う。
「ありがとうございます」
ディナルはまた頭を下げる。どうせ良い評判では無いのだろう、と思ったが口には出さない。
或いは……ろくに自分達の噂など聞いてもいないのに、ただの社交辞令で言っているのかも知れない。ディナルはじっとアルソンの顔を見る。温厚な笑顔の裏で何を考えているのか、或いは本当は何も考えていないのか、ちっともその茫洋とした雰囲気からは想像出来ない。
「それで」
ディナルはアルソンに向かって言う。
「どのような『ご依頼』なのでしょうか?」
ディナルの問いに、アルソンは頷く。
『ふむふむ、君は無駄口があまり好きでは無い、と見えるね、では早速『依頼』について話すとしよう』
穏やかに笑ってアルソンは告げる。
『君達にお願いしたいのは、まあ簡単に言えば『要人の護衛』というところかな』
アルソンは言う。
「護衛、ですか、一体……」
誰を?
そう問いかけようとした。
だがそれよりも早く、アルソンが続ける。
『護衛して貰いたいのは、我が国の外交官。つまりは私の部下だ』
「部下……」
ディナルは言う。
『そう、その人物は……』
アルソンはにこやかな表情のままで言う。
『『レオネ国』との、和平の為の交渉人だ』
「……交渉人……」
ディナルは呟く。
そして。
「和平、ですか?」
フリードが問いかける。いつも感情を表に出さない彼だが、この時ばかりは声に些かの困惑が滲んでいた。それはディナルも同じだった。百年以上も争いを続けていた二国が、まさか……
『そう驚くことでは無いだろう?』
アルソンは言う。
『百年以上もの理由も解らない戦争に、もう両国共に疲れ切っているのさ。和平を結べるのならばその方が良い、君達傭兵は知らないかもしれないが、今、どちらの国でもそうした動きが活発化して来ているのだよ』
アルソンは告げた。
「……それは……」
ディナルは呟く。
確かに、もう理由も解らない戦いを終わらせたいと考えるのは当然だろう、戦争というものは所詮、国を疲弊させるばかりで何の利益も生み出さないものだ。
ディナルはちらりとジャックの方を振り返る。
ジャックもディナルを見ていたが、軽く首を横に振る。この男はコンピューターを用いて様々な情報を得ている、『依頼』があればどちらの国であろうと味方するというのがこの傭兵団、『亡霊』の『掟』だ。それ故にどちらの国の情勢も絶えず探っている、どんな『依頼』が入りそうか、このおかげで解る、という訳だ。だけど……
両国の和平。
そのための使者。
いずれもジャックが掴んではいない情報。という事だ。




