・第五話
ディスプレイの前に座っていたのは一人の青年。くるりと振り返った青年の顔にはクマがある。いつもいつもモニターとにらめっこをしていて、滅多に外に出ない変わり者だが、こいつの作り出す様々な機械類やドローンには、任務を遂行する上でいつも助けられている。その反面、こいつは警戒心も強く、常に自室であるこのコテージの周囲には沢山のドローンが飛び回り、近づく者を厳しく監視していた。
「よう」
そいつが朗らかに笑って言う。
ディナルも青年も何も言わない。ただ無言で青年の顔と、モニターを見ていた。
「で?」
口を開いたのはディナルの横にいる青年だ。
「任務なんだろう? 誰からの依頼でどんな……」
「そう急かすなよー、仮にも狙撃手なら待つ事だって大事だろ?」
にやりと笑って、モニターの前に座る青年が言う。そして……
「フリード」
モニターの前に座る青年が、ディナルの横にいる青年に向かって笑いかける。
フリード。そう呼ばれた青年は興味もなさそうにふん、と鼻を鳴らした。
「俺はお前と違って、無駄が嫌いなだけだ、解ったのなら早く教えろ」
そして青年。
フリードは、モニター前に座る青年に向かって言う。
「……ジャック」
その言葉に。
モニター前に座る青年、ジャックは軽く笑う。
ディナル、コードーネーム、『亡霊』
ジャック、コードネーム、『騒霊』
フリード、コードネーム、『死霊』
本名なのか、それともあだ名なのか、何故傭兵になったのか、何処の生まれなのか、この傭兵団『亡霊』を結成してもう数年ほどが経過しているが、今まで一度も話した事が無い。今後も多分話す事は無いだろう。
それで別に構わない。自分達は傭兵団として任務をこなし、報酬を得る。それ以外の事には関心が無い。こいつらの過去などどうだろうと関係ない。ただ『使える』か『使えない』かだ。
そしてこいつらは『使える』。そう判断したからこそ、ディナルはずっとこの二人と行動を共にしている。そしてその期待を二人は裏切らない。
それで十分だ。
「それで?」
フリードがもう一度面倒そうに言う。
「一体どんな奴からの『依頼』なんだ?」
その言葉に、ジャックは腕を組み、わざとらしくふふん、と笑ってみせた。
「驚くなよ、今回は……」
にやつきながらジャックが言う。
「今回の『依頼人』は、『エイブ国』側だ」
「内容は?」
ディナルが問いかける。
「おいおい」
ジャックがにやついたままで言う。
「正式に引き受けてもいないのに、内容を聞いても良いのかい?」
「受けるかどうかは、内容を聞いてから判断する。いつもそうしているだろう?」
ディナルはにこりともせずに言う。
その言葉にジャックは肩をすくめた。
「オーケー、ただし……聞いてから後悔するなよ?」
言いながらジャックは、鼻歌交じりにモニターの前のキーボードを操作する。
カタカタと響く軽快な音を聞きながら、ディナルは目を閉じた。
『内容を聞いても良いのかい?』
ジャックの言葉を思い出す。いつも自分達は、内容を聞いてから受けるか否かを判断していた。確実にこなせる『依頼』でなければ受けない。それこそが傭兵として、自分達が生き残る為の秘訣だ。だからこそ自分達はここまでやってこられたのだ。
それをわざわざ確認する、という事はつまり。
内容を聞いたら、もう断れない。
そういう事だろうか?
或いは……
ディナルは目を閉じたままで思う。
或いは……危険な内容なのかも知れない。
だが。
どんな任務であろうとも、自分達は必ず。
必ず、生き残る。
ディナルが目を開けると、目の前のモニターに人が映っていた。
六十代半ば、という年齢の白髪の男。仕立ての良いスーツに身を包み、顔には温厚そうな笑顔が浮かんでいる。この男には見覚えがある……確か……
「……アルソン外交大臣?」
フリードが低い声で言う。
「エイブ国の外交大臣のか?」
ディナルは言う。じっと目の前の男の顔を見る。確かに資料でしか見た事が無いけれどその顔は間違いなく、『エイブ国』の外交大臣、アルソンだ。




