・第四話
コテージの扉を開け、外に出る。
ひゅうう、と、そろそろ冬になりかけの、ややひんやりとした空気がディナルの全身をすっぽりと包む。周囲を見回しても、この辺りの草木は全て戦火で焼き尽くされ、今では荒涼とした岩肌が広がるだけだ。それでも、ちゃんと見てみれば、この岩だらけの山にも少しではあるが、生き物や植物が生息している。
そんな小さい動植物の営みを見るのが、ディナルは好きだった。小さい生き物でも、自分達と同じ場所に住む者達……彼らがいる場所にならば、自分達のような、『亡霊』でも、そこに暮らして良い、と言われている。
そんな気が、した。
そんな事を考えていた時だ。
「よう」
声がする。
ディナルは顔を上げた、ディナルが寝泊まりするコテージとは、別なコテージの扉が開いて、一人の男が顔を出していた。
ディナルと同い年くらいの若い青年だ。もっとも、彼の正確な年齢をディナルは知らない、そもそも……
ディナルは軽く笑う。
そもそも、自分の年齢すら、ディナルははっきりと覚えていない。物心ついた時から戦場にいて、そして……
そして、戦って来た。この青年がどんな人生を歩んで来たのか、それをディナルは知らないけれど、きっと彼も……
彼も、似た様なものだろう。
ディナルは、そう思った。
「……ああ」
ディナルは、青年に向かって軽く手を挙げる。
「良い朝だな? ディナル」
青年が言う。
「……本名で呼ぶな」
ディナルは顔をしかめる。
「おいおい」
青年は、軽く笑う。
「今は、『任務』の時間じゃないだろう?」
青年は告げた。
その言葉に……ディナルは軽く息を吐く。
「『依頼』が入ったんだろう? ならばもう『任務』の時間だ」
ディナルは言う。
その言葉に……
青年は、軽く苦笑いを浮かべる。
「相変わらず、お堅い事だな」
青年が言う。
ディナルは、何も言わないで、黙って歩き出す。
目指す場所は、もう一つのコテージ。
そこに、自分にさっき通信を送って来た相手がいる。
そして……
そこでは、新しい『依頼』が待っている。
それだけで、自分には……
自分には、十分だった。
やがて、もう一つのコテージの前に、二人は立つ。
ぶううううううん……と、耳障りなプロペラ音が、二人に向かって近づいて来る。それが何なのかはすぐに解った。
ドローンだ、丸い円盤にプロペラが取り付けられたドローン、昨日の『仕事』で見た時には、その中心から飛び出す突起は銃口だったけれど、今、自分達二人の目の前を飛んでいるドローンに取り付けられているのは、どうやらカメラらしい、そのカメラが、二人の様子を音もなく撮影している。
ややあって。
ピンポン……
と。
甲高い電子音が響く。
それと同時に。
がちゃり……
微かな金属音。
目の前のコテージの扉の鍵が、ゆっくりと開けられる。
そのまま、ゆっくりと……
ゆっくりと、扉が開けられる。
「どうぞ入ってくれ」
コテージの奥から声がする。
ディナルと青年は、ゆっくりと。
ゆっくりと、室内に入る。
薄暗い室内、この中には、大量のPCが置かれているらしい。太陽の熱はPCに良く無い、という事で、このコテージの中は、いつも薄暗い。
そして。
コテージの奥。
ぼんやりとしたPCのディスプレイの光が照らし出す室内に、三人は集まった。