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Mercenary  作者: KAIN
・第一章:依頼
3/4

・第三話

 『エイブ国』。

 『レオネ国』。

 この大陸に、古くから存在する二つの国。どちらも高い軍事力と、他国との太いパイプを持ち、東方、北方、南方、様々な国との交流が盛んな国。

 だが……

 大陸の外の国々との関係が深い代わりに、同じ大陸にある隣国とは、この二国は非常に険悪な関係だった。

 一体、いつから二国間の戦争は始まったのか。

 一体、何が原因で二国間の戦争は始まったのか。

 もはやそれを覚えているのは、両国の首脳部にもいないだろう。百年前、或いは二百年前、はたまたもっと大昔、という説もあるが、いずれもはっきりとした記録は残されていない。

 とにかく、そんなにも大昔から、この国は戦争を続けて来た、そして長い年月の間に、様々な武器、技術、兵法が確立されていった。同盟関係にある様々な国から、この大陸には存在していない武器や兵器、或いはそれらを開発する技術なども、次々に取り入れられていった。

 さらにはそれらに目を付け、他の大陸から渡って来ては武器を、両国に売りつける、所謂『死の商人』と呼ばれる悪質な『ビジネス』が横行し始めていた。

 そして……

 他の大陸で、職を失ってしまった者達。

 或いは、両国の戦争で故郷を無くしたり、家族を亡くしたり、部隊とはぐれたりした者達。

 そうした者達が、『傭兵』として両国の戦に介入する。

 そうした者達も、また両国内で、或いは国外で生まれていた。


 そんな『傭兵』達は、最初のうちでこそ、両方の国に味方していた、戦況を自分達で見定め、有利な方につく『傭兵』もいれば、金払いの良い方に味方する『傭兵』もいる。

 だが……

 長い年月の間に、そうした『傭兵』達の行動は、二国間でもたびたび問題視される様になっていた、金や戦況で、すぐに裏切る『傭兵』達は信用出来ない、そんな奴らに『任務』を与えて寝返られたりすれば、結局自分達の国々が危険な目に遭うのだ。それならば正規の軍だけで戦う方が確実だし、金だってずっと安上がりで済む。

 そうして、『傭兵』を雇わない、という方針を、二つの国が取り始める様になれば、困ってしまったのは『傭兵』達の方だ。『仕事』が貰えなければ何の為に『傭兵』をやっているのか解らない。

 結局、『傭兵』達は、多少危険で、尚且つ期間が長くとも、両国の主張をよく聞き、従おう、と思った方につく、という形で落ち着いた、そうしてきちんとどちらかの国の下について戦っていれば、いずれは正規軍に取り立てて貰えるし、そうなれば危険な『任務』をこなす必要も無いし、『仕事』を探してあちこちうろつかなくても良くなるし、何よりも出世して将校にでもなれれば、『傭兵』であった頃よりもずっと良い金になるのだ。

 そうして、『傭兵』達はいつの間にか、士官を夢見てそれぞれの国の下に付くようになっていた。

 だからこそ。

 未だに、金払いの良い方に味方する、などというスタンスをとっている『傭兵』、或いは『傭兵団』は、ここ最近では二つの国からはもちろん、同じ『傭兵』からも非常に嫌悪される存在になっていた。

 例え今は、そんな『傭兵』は非常に少ないとは言っても……

 否。

 少ないからこそ、そうした者達は名指しで非難される。

 そんな、古いスタンスを崩さない『傭兵団』の中で、もっとも名のあるのが……


 ディナルは、ゆっくりと……

 ゆっくりと、目を開ける。意識がぼんやりとしていたけれど、ベッドの上に身体を起こし、軽く首を横に振って、無理に意識を覚醒させる。『仕事』を終えたばかりとはいえ、仮にも戦場に身を置く者が、朝目を覚ました時に意識がぼんやりしているなど、決してあってはならない事だ。

 ディナルはゆっくりとベッドから下りる。

 殺風景な、木造の部屋が視界に飛び込んで来る。かつては何処かの金持ちの別荘だったとかで、近くには同じ様なコテージ風の木造の建物が沢山ある、だが戦火が近づいて来た事で、かつての持ち主はこの別荘を捨てて逃げ出し、今では建物だけが残っている、そこをディナルと、『傭兵団』の仲間達で貰い受けた、というよりは勝手に住処にしているだけだ。

 ベッドの他には、丸い木製のテーブルしか無い部屋の中を、ディナルはゆっくりと歩き、テーブルの上に置かれた拳銃をポケットにねじ込む。

 そのまま床の上に脱ぎ散らかした軍服を身に纏う、その軍服はもうすっかり薄汚れてしまっていたし、勲章が飾られていたはずの胸元には、乱暴に引き千切った形跡しか無い。

 それでも、この軍服は、『傭兵』とナル以前からディナルが身につけている物だ、別に愛着がある訳でも無いが、他の服なんか持っていないから、とりあえず着ている。

 そして。

 ディナルのもう一つの武器。

 それは……

 ベッドの脇に立てかけられている刀だ。

 ディナルはそれを、ゆっくりと手にとり、腰に吊す。かつてとある戦場で戦った、東の国から流れて来たと思われる『傭兵』が持っていた武器だ、この大陸にも軍刀は存在していたけれど、それよりもずっと切れ味の鋭いこの武器が気に入って、ディナルが貰い受けた。

 そうして服と武器を身につけたディナルは、耳にいつもの通信機を取り付けた。

 途端。


『よう』


 通信機から声がする。


『お目覚めかい? ボス?』


 聞こえて来たのは『騒霊』の声。

「……何の用だ?」

 ディナルは面倒そうに問いかける。


『仕事の依頼が来たぜ、亡霊ファントム


 通信機の向こうから、『騒霊』が言う。

 ディナルは軽く息を吐く。

「……すぐ行く」


 『亡霊』(ファントム)。

 ディナルのコードネームであり、この『傭兵団』の名前でもある。

 この大陸で、その名前を知らない『傭兵』はいないだろう、二つの国の間でも、自分達は有名だ。

 未だに、古いスタンスで、金次第でどちらにも味方する、意地汚い、誇りの無いならず者の『傭兵団』。

 『亡霊』(ファントム)という名前は、そんな彼らを揶揄して、誰かが呼ぶ様になったのを、ディナルが気に入った、というのが、名の由来の一つだ、『金の亡者』という事から来ているらしい。

 だが。

 無論、そればかりが理由では無い。

 『亡霊』(ファントム)の実態は、あの『騒霊』が上手く隠しているため、未だにここが拠点である事も、メンバーが三人しかいない、という事も、誰にも全く知られていない、それらのことから、まるで幽霊の様に実態が掴めない、という事からも、そう呼ばれている。

 そして。

 『亡霊』(ファントム)と戦場で相対した者達は数多くいる。

 だけど……

 彼らと戦った者達の中で、生き残った者は存在しない。『亡霊』に取り殺されたかの様に、全員が殺されてしまう。

 それもまた、名の由来の一つであった。


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