・第二話
ざざざざざ……と。
滑る様に丘の上を駆け下り、そのまま刀を振りかぶって、装甲車に向かって走る。相手の車を停める、がちゃ、がちゃ、と音がして、トラックの方からバラバラと、迷彩服の兵隊達が現れる。
ディナルは兵士達を無視し、だっ、と装甲車に向かって走る。
兵士達が、ばっ、と正面に立ちはだかる。だが……
タァーン……
遠方から聞こえたのは、銃声。
そして、正面に立つ兵士達のうちの一人の頭から、ばあっ、と血がしぶく。
そのまま、その兵士はどう、と倒れる。
『刀なんて……』
耳に取り付けた通信機から呆れた声がする。
『時代錯誤なものを使っているから、近づいて戦うしか出来ないんだぜ? 隊長』
「『死霊』(レイス)か?」
ディナルは通信機に向かって言う。だが相手は何も言わず、さらにもう一発の銃声が轟く。正面に立つ兵士達のうちの一人の頭から、またしても血がしぶく。
「くっ……」
別な兵士が呻く。
「『狙撃手』(スナイパー)か!?」
その兵士は言いながら、ばっ、とポケットから銃を取り出す。そのまま銃を手に、何処かに向かって走り出そうとする。だが……
ぶぅううううう……
聞こえたのは……
まるで小さい羽根が回る様な音。そして……
兵士達の頭上に、何かが飛んで来る。そして。
ががががががががっ!!
と。
銃声が轟く。銃を手にした兵士の身体に、複数の穴が穿たれ、そのままどさり、と仰向けに倒れる。
「な 何だ!?」
兵士の一人が声を荒げる。
いつの間にか、ディナルと集まった兵士達の周囲を、プロペラの付いたドローンがいくつも飛び回っている。
『どうだい?』
通信機から聞こえたのは『騒霊』の声。
『俺の『相棒』達は?』
そのまま、ドローンが、レーザーポインタを一斉に兵士達に当てる。ディナルは無視して、その兵士達の横をばっ、と走り抜けて装甲車に飛びつく。
そして。
ドローンの銃声。
さらには、『死霊』のスナイパーライフルの狙撃音が同時に響く。
装甲車の運転席に飛びついたディナルは、そのまま装甲車に乗り込もうとする。
だが。
ばっ、と。
運転席から、誰かが飛び出して来る。それは迷彩服を着た敵方の兵士だった。
ディナルは刀を構え、そのまま相手と向き合う。相手の手には、ぎらり、と輝く軍用のナイフが握られていた。そのままだっ、と相手がこちらに突っ込んで来る。
繰り出されたナイフは、正確にこちらの心臓を狙っている、だがディナルは動じた様子も無く、刀の柄尻をぶんっ、と振り下ろして相手の手首を打ち付ける。
ごぎ、と鈍い音がして、相手の手首の骨が砕ける。手から力が抜け、ナイフがぼろ、と地面の上に落ちる、ディナルはそのまま刃を返し、相手の懐に踏み込み、脇腹を浅く斬り裂く。赤黒い血が、一気にばっ、と噴き出す。
ディナルはそのまま、ぶんっ、と刀を振るい、血を払い落とす。相手の身体がどう、とその場に倒れ、動きを止める。
ディナルはそのまま、ふん、と鼻を鳴らして刀を鞘に収めた。
そのまま無言で装甲車に近づいて行き、開きっぱなしになっていた運転席の扉から車内に入り、背後の荷台を開ける。
そのままゆっくりと……
ゆっくりと、背後に回り込んで小さい木箱に入った荷を下ろす。
前線に届ける物資、中身がなんなのかは聞いていないし興味も無い。『任務』はただ一つ、これを回収して運ぶ、それだけの事だ。相手が、いかにも積み荷を積んでいそうなトラックに兵士を乗らせ、兵士が乗っていそうな装甲車に敢えて積み荷を積んでいた、というのは、なかなか上手く考えたものだが……
ぶううううううん、と音がする。『騒霊』の『相棒』のドローンだった。小さい銀色の円盤の上にプロペラが取り付けられ、正面には黒いカメラアイが取り付けられている、このカメラには、ディナルは知らないが、暗視機能やら、赤外線のカメラやらの機能も取り付けられており、物体を透視して物を探す事も出来る、というわけだ。
そのままディナルはゆっくりと木箱を持って歩き出す。
さっきまで兵士達が集まっていた辺りを見る。
すでにそこに立っていた兵士達は、全員が倒れてしまっている、それをやった人間の姿は無い、ただドローンが、まるで小鳥の様に飛び回っているだけだ。
ディナルはゆっくりと歩き、木箱を車から離れた場所に置き、ゆっくりとトラックに近づいて行き、燃料タンクの蓋を開ける、そのままとぼとぼと零れた燃料に向かって、ポケットから取り出したライターに火を点け、ぽんと放り投げる。
そのままディナルはゆっくりと車から離れて行く。
そして……
爆発音が、轟いた。
ディナルは爆風を背に受けながら、そのまま歩き出す。
『相変わらずだなー』
通信機から『騒霊』の声がする。
「余計な痕跡は残さない、そうで無いと……」
『我々の実力や戦いの手口などから、我らの『実力』が知られてしまう、だから敵は全て殺し、そして痕跡も消し去る』
『死霊』の声がする。
『それが我々のやり方だ、そうだろう?』
そして。
『死霊』が通信機の向こうから言う。
『『亡霊』(ファントム)』
『亡霊』(ファントム)。
そう呼ばれ、ディナルは……
ゆっくりと、頷いた。