・第十三話
ハッチから顔を出したディナルの目に飛び込んできたのは、大きな音をたてながらこちらに接近してくる銀色の鉄の巨人だった。右腕の先端が巨大な銃口になり、左腕の物を掴めるような形状ではあるが、今はその手に何も握られてはいない。
ずんぐりとした卵形の胴体に、そこから伸びた細長い手足、足首だけは巨大なスリッパのような構造になっている、原始的ではあるが頑強な装甲と、高性能のコンピューターで制御された戦闘用マシナリーだったはずだ。確か開発元は……
『『レオネ国』だよ』
耳に装着した通信機から、ジャックの声がした。
「……まだ何も言ってないだろう?」
ジャックは呆れた口調で言う。
『あんたの事だから、どうせどちらの国が開発したのか、そして今回の襲撃がどちらの国からの指示なのか、そんな事を考えてるんじゃないかと思ってね』
ふふん、とジャックが笑う。
ディナルは薄く笑った。実際にそういう事を考えていたからだ。
『だけどまあ……』
ジャックの声がする。
『まだ解らないぜ』
「……どういう意味だ?」
ディナルは問いかける。
『『和平』に反対する勢力は両国にいるんだぜ? 目的が同じならば……』
ジャックは告げた。
その言葉にディナルは笑う。
「確かにそうだな」
そう。
『エイブ国』と『レオネ国』の和平。
戦争が終わるのならば、それが上手く行く方が良いと思う者はいるだろう。だけど……そうで無い人間が、両国にはいる。先ほどのルシアの父の話からでもそれは明らかだ。
もし。
そんな奴らがこう考えたら……?
『和平を潰す為、使者を暗殺するまでの間、お互いに手を組む』
と。
『そ そんな……目的が同じだからって……』
ルシアの声が通信機の中に割り込んでくる。ディナルは何も言わない。別に敵が誰であろうと、目的が何であろうとも関係は無い。自分の……
否。
自分達の『使命』は……
「我々がするべき事は、たった一つだ」
ディナルは告げた。
相手のマシナリーが銃口を構える。
「来るぞ」
『あいよ』
ディナルの言葉に、通信機からジャックの声がする。その瞬間無数の弾丸が相手のマシナリーの右腕の銃口から放たれる。
車がぐん、と右に移動し、銃口を回避する。
「おいおい」
ディナルは通信機に向かって笑いながら言う。
「こいつの装甲なら、あれしきの弾丸は防げるんじゃ無いか?」
『そうだけど、表面に傷が付くのが嫌なのさ、せっかくのうちのかわい子ちゃんだしね』
くく、と。ジャックが笑った。
そのまますぐに次の弾丸が放たれる。装甲車がすぐに左側にずれる。さっきまで装甲車が走っていた地面の上に、無数の弾痕が穿たれる。すぐにそちらに向けて銃弾が放たれるが、また車が位置をずらす。さすがにこれ以上銃を撃っても無駄だと判断したのか、そいつは銃口を下ろし、足を止める。がしゃっ、と音がしてそいつの左の脇腹が開き、そこから銀色に輝く金属の棒が出て来る。そいつがそれを掴んだ瞬間、ぶぅうううん、と音がして、その金属の棒から青白いレーザーのブレードが放たれる。
『レーザーソードか、厄介だな』
ジャックの声が通信機から聞こえる。
『あの高熱のレーザーじゃ、この装甲車の装甲板が焼き切れちまうぜ』
ジャックが言う。ディナルは何も言わず、ひらりとハッチから天井に飛び乗る。
「速度を落とせ」
ディナルは淡々とした口調で言う。ジャックは何も言わずに車の速度を落とした。がしゃん、がしゃん、と大きな音がして、マシナリーが接近して来る。距離がどんどんと縮まって来るのを見ながら、ディナルは腰の刀の柄に手をかける。やがて完全に、相手のブレードがこちらに届く距離まで迫った瞬間、ディナルはばっ、と車の天井を蹴って跳躍した。
そのまま相手の頭の上に飛び乗り、刀を鞘から抜き放つ。
相手もさすがに頭上に敵がいるのに、ブレードで装甲車を攻撃する訳にはいかないのだろう、身体をぶんぶん左右に振って、ディナルの身体を振り落とそうとした。
揺れに耐えながら、刀の切っ先を下に向けて構える。眼前にあるのは赤く輝くカメラアイだ、そしてこいつはこの頭の中に、動きや武装を制御するためのコンピューターが内蔵されている。ディナルはその頭に向かって刀を振り下ろした。
がしゃあんっ!! と大きな音がして、刀が頭部を貫く。
ぶしゅうう、と音がして、そいつの関節のあちこちから煙が噴き上がる。ディナルはそれを確認した後、ひらりと装甲車の天井へと飛び乗り、そのまま車内に戻る。
「ご苦労さん」
ジャックが軽い口調で言う。
ディナルは何も言わないで、ジャックの目の前にあるディスプレイを見る。取り付けられたカメラがマシナリーの姿を映している、頭を潰されたマシナリーは、思考力を失って剣を振り回し、銃を出鱈目な方向に乱射し、やがて動きを止める。
ディナルは何も言わず、装甲車の壁際にすとんと腰を下ろし、刀の刃にこびりついた金属片や埃やらを、ポケットから取り出した布で拭き取り始めた。
ルシアはそれを、呆然と見つめていた。




