・第十二話
「大した理由なんか無いさ」
ディナルは、ぶっきらぼうな。だけど何処か優しさを感じる口調で言う。
「……俺達みたいな『半端物』は、こういう生き方しか出来ないってだけだ」
「半端物、ですか?」
ルシアは言う。
「俺は『傭兵』やってる方が正規軍で雇われるより儲かるからだけどな」
ジャックがコンソールを操作しながら言う。
フリードは何も言わない。既に銃の手入れは終わったらしく、無言でごとんと銃を床に置いて、壁に背中を預けていた。できる限りは身体を休めよう、という事だろう。
「あんたは」
ディナルが、じっとルシアを見る。
「どうして『外交官』なんかやっているんだ?」
ルシアはその言葉にディナルの顔を見る。
「……それは、この『任務』に関係ある話ですか?」
ルシアが問いかける。
「別に、単なる雑談さ、こっちも暇なんでね」
ふふ、とディナルが笑う。
ルシアもその言葉に軽く笑う。
「私は……」
ルシアは、目を閉じた。
「父が、外交官だったんです」
そこでゆっくりと目を開け、ディナルの目を見る。
「母は、私を産んですぐに亡くなってしまいました、父はそんな私を一人で育てながら外交官として活動していました、そして五年前……今の私と同じく、『エイブ国』と『レオネ国』の和平交渉の話が持ち上がりました」
ルシアはまた目を閉じる。
そうだ。
確かに五年前、『エイブ国』と『レオネ国』の和平の話は持ち上がっていた。
その為の交渉役として選ばれたのが外交官でもあった父だ。ルシアは目を閉じたまま思い出す。
だけど、出発するよりも早く、父は……
父は、殺されてしまった。遠方から突如として狙撃され、そのまま倒れた。犯人は未だに見つかっていない。どちらの国にも和平に反対する勢力は確かに存在しており、暗殺者を差し向けたのはどちらの勢力なのかは解らないという事であった。
それから五年後。
両国でそれなりに燻り続けていた和平の動きが、またしても大きくなり……また再び和平交渉の話が持ち上がり、和平の為の交渉役として選ばれたのが……娘であるルシアだった。
ルシアはゆっくりと目を開けた。
「……こんなところですかね」
ルシアは三人を見回す。
「父が死んでから五年間、とにかく必死になって資料を読んだり、交渉術について学んだりして、ようやく使者に選ばれました」
ルシアは拳を握りしめる。
「だから私は……この『任務』、つまりは『和平』を、何が何でも成功させるつもりでいるんです」
ルシアは息を吐いた。
「父の無念を、晴らす為に」
ルシアは、はっきりと告げる。
誰も何も言わない。沈黙だけが車内に下りていた。
ややあって……
ぴぴ、と微かな音がする。何か緊急事態を告げる警告音だ。
ジャックが黙ってコンソールを操作し、中央付近に取り付けられたディスプレイを見る。
「……何か来るな、数は……一機か」
ジャックが言いながら、またしてもコンソールを操作する。
ぱっ、と映ったのは、大きな人型のメカだ。箱のような頭に、大型の丸いカメラが取り付けられており、人型の両腕の右手には回転する刃、左の手には銃口が見えている。
「戦闘用マシナリーか、こりゃあまた……ずいぶんなモノを持ってるなあ」
ははは、とジャックが笑う。
「……仕留めてくるか」
フリードがライフルを手に、ゆっくりと立ち上がる。
「……いいや」
ディナルが言う。
「今回は、俺が行く」
そのままディナルは、足下に置かれたままの武器を手に取った。
「おいおい」
ジャックが言う。
「隊長自らが、前線に出るのかい?」
「……たまには身体を動かさないとな」
ふふ、と。ディナルは笑う。
「解ったら、天井を開けてくれ」
「はいはい」
ジャックが頷いてコンソールを操作すると、うぃい、ん……と音がして天井がゆっくりとスライドして開いていく。
ディナルは無言のままで、そこから出て行く。
ルシアは黙って、その姿を見ていた。
『和平』を成功させる。その意思は変わらない。だけど……この三人に……
出来れば、生きていて貰いたい。そういう風に思いながら。




