・第十話
たあんっ!!
乾いた銃声が轟く。放たれた銃弾は、高速で回転しながらヘリのコクピットの正面部分に向けて飛んで行く。
『強化ガラスだぜー』
耳に取り付けた通信機からジャックの声がする。フリードはその言葉に眉一つ動かさない。
がきいんっ!! と音がして、ガラスの表面に大きく亀裂が走る。
「問題は無い」
フリードは淡々とした口調で言う。
「お前は運転に集中しろ、ジャック」
『集中、と言ってもこいつの運転はAIなんだよなあ、生憎と』
くくく、と。揶揄うように笑うジャックを無視し、フリードは再びスコープを覗き込む。
相手がすぐに機銃の斉射を開始しようと、コクピット内でコンソールを操作するのが見える。だがフリードは動じずに次の弾を込めて引き金を引く。
再び轟く銃声。
ぎぃんっ!! と音がする。
機銃の支柱部分で一瞬、赤い火花が飛び散る。次いでぎ、ぎぎ、と金属が軋む音がし、機銃の支柱がへし折れる。がらんっ!! と音がして機銃が地面の上に落ち、そのまま背後に転がっていく。
相手が慌てた様子になるのが、曇っているガラス越しにもはっきりと解る。
フリードは無視し、再びスコープを覗き込んだ。
次の弾を込める。
そして。
引き金を引いた。
たあんっ!! と。
さっきと同じ銃声が轟く。飛んでいく弾丸、相手がそれに気づいて息を呑むのが見える、狙う箇所は……さっき銃弾が命中して出来た亀裂。
放たれた弾丸は亀裂を貫通し、その次の瞬間。
ばあっ、と赤黒い血がしぶき、ガラスに赤い斑点がいくつも生まれる。こちらを正確に追跡していたヘリが、突然ぐらぐらと上下に揺れ出す。フリードはそれ以上ヘリの方を見るのを止め、ゆっくりと車の中に戻っていく。
そのまま運転席にいるジャックに向かって言おうとした。だが既にジャックはコンソールのあちこちを叩いていた。それと同時に車の速度が上がり、ぐん、と身体に圧がかかる。
ずうん、と。
分厚い装甲に覆われた車の中にいても、はっきりと聞こえる。
次いで聞こえたのは、大きな爆発音。
「ひぃっ!!」
ルシアが息を呑む声が聞こえた。
「落ち着け、騒ぐな」
ディナルが冷たい口調で告げる。
「だ だけど……あんな爆発が……」
ルシアが震える声で言う。
「近くには誰もいない。操縦していた奴は死んだだろうが、こちらに戦闘を仕掛けてきた以上、ああなるのは覚悟の上だったろう?」
ディナルは淡々とした口調で言い、そのまま壁に背中を預けて目を閉じる。
「解ったのならいい加減に座れ。さっきからすぐ近くに立っていられて鬱陶しい」
ルシアはその言葉に鼻白む。周囲を見回すが、フリードは何事もなかったように座り込んでライフル銃の手入れを始めており、ジャックは相変わらずコンソールを操作していた、鼻歌まで歌い出す始末だ。
「貴方方は……何なんですか?」
たったの今。ヘリを一機墜落させたとは思えないほどの落ち着き払った様子が、ルシアには信じられなかった。自分はそれほど軍人というものを知っているわけでは無いけれど、みんなこういうものなのだろうか?
「俺らは『傭兵』だ」
ディナルは告げる。
「……今は、あんたを護衛するのが仕事の、な」
ディナルの言葉に、他の二人は何も言わない。
ルシアは、ぎゅっ、と拳を握りしめる。
身体が震える。
額……
否。
全身からじんわりと汗が噴き出してくる。怖い、と感じるが、それが呆気なく人の命が奪われた事に対する恐怖なのか、敵とはいえ人間の命を簡単に奪った彼らに対する恐怖なのか。それはルシア自身にも解らない。
だけど……
震えている場合じゃ無い。自分には……大きな使命があるのだ。
ルシアは、ガクガクと震える膝を両の拳で殴りつけた後、両頬を手でぱんっ、と叩いた。
そのままその場にしっかりと座る。
「……護衛、お願いします」
ルシアは、はっきりとした口調で言う。
「当然だ」
ディナルは頷いた。
他の二人は何も言わない。ルシアはゆっくりと息を吐いた。
装甲車は、相変わらず振動も無く走って行く。
車内には、沈黙が落ちていた。
墜落したヘリの機体からは、猛烈な勢いで炎が吹き上がっていた。
中にいるであろう操縦士は、もう骨にでもなっているだろう。その機体の側に、三つの人影が佇んでいた。燃えさかる炎に照らされ、その姿は黒い影にしか見えない。
三人の人影は、燃えるヘリを黙って見ていた。




