彩雲を編む
雨上がりの空に滲んだ虹をひとつまみ。慎重に指先で七色の端を引っ張れば、シュルシュルとほどけて一本の毛糸になるのです。
曇天はまだ重たげな眼差しで地上を見つめます。けれどもう雨は降らないのでしょう。破れた隙間から澄み切った青が覗いています。
それに加えて、今日の風は力強く真横に引かれた線のように強いのでした。灰色の雲はあっという間に連れて行かれ、代わりに綿雲が流れてきました。
わたしは雨に濡れた地上と雲の真ん中に立って、虹からとった毛糸を編み針に巻きつけるのです。この編み針は、生まれた時から月だけを見上げて育った白樺の木から作られたもので、どれだけ長く編んでいても疲れることはありません。針の先で作った小さな輪から糸を引き出すと、チリと七色の繊維が弾けました。
毛糸の先は虹の端に繋がったまま、綿雲を織り交ぜて編み始めます。今日はどんな模様にしましょうか。太陽の周りをぐるりと囲んでもいいでしょうし、扇子のように大きく広げてもいいかもしれません。空を泳ぐ魚の鱗代わりにするべきでしょうか? いえいえ、羊の群れのうち、ほんの五頭だけ色鮮やかなものが混じるのも、きっと素敵に違いありません。
けれど、今日の虹は空の果てから果てに届くほどに大きいのです。光を蓄えた毛糸は、引いても引いても終わりがないようでした。ちょうどいい具合に真っ白な綿雲も集まってきたところです。空いっぱいに虹色の羽衣を広げてみるのはどうでしょう。
手に馴染む編み針を動かし、一針一針編んでいきます。糸をほどかれた虹はいつしか最初の半分ほどに透けていました。
風が灰色を押し流し、また新しい白雲を呼びます。そうしてすっかり空が晴れ模様に入れ替わる頃、ようやく虹の羽衣が編み上がりました。
息を止めて、いっせいに広げます。太陽を真ん中にして空を埋めたのは、桃色、橙色、エメラルド色、瑠璃色……鮮やかな色彩。それらは陽の光を受けて刻一刻と変化して、いっときたりとて同じ色になることはないのです。
わたしは月の白樺の編み針を、滑らかな皮でできた袋にしまいます。その間にも彩雲の糸はほどけ、空と同化しているのでしょう。
それでも編んだ雲は美しく、虹と同じだけ空と太陽を彩るのです。