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涙を落とす森の話

 ひよひよと、どこか上のほうから鳥の鳴く声がします。しかし見上げてみても、青空を埋めるように葉を広げる木々がさわさわとさざめく音しかないのです。

 あたりには緑の匂いが立ち込めて、湿った土が靴を星の中心に向けて引っ張ります。苔むした岩の間から頭を出したきのこが、ぼんやりとした緑色の光を放っていました。

 背の高い草が揺れます。その隙間から、一羽のうさぎがふわふわの顔を覗かせていました。うさぎは耳のてっぺんから尻尾の先まで真っ白で、まるでこの世界で起きるあらゆる痛ましさを一切知らないようでした。

 桃色の鼻先がひくりと動き、うさぎは森の奥へと跳ねていきます。

 ぽろん。どこからともなく、心地よい音が響きました。陽の光とともにはらはらと降り注いでいたのは、木々が落とした雫です。この森の木は、数少ない雨の日にしっかりと水分を蓄えて、生命の音と混ぜ合わせたあとに、足元に生える背の低いものたちに分け与えるのです。

 雫が草や地面を叩くたび、木琴にも似た音が鳴りました。少し前を走るうさぎも同じです。いつしか森は。背の低いものたちの喜びの歌であふれかえっていました。

 雫を弾く葉は踊り、うさぎは時折立ち止まっては体を舐めています。森の大合唱のなか進んでいくと、ふいに開けた場所に出ました。

 ほのかに緑色に光るきのこに囲まれているのは、小さな切り株です、この切り株は、森で一番最初に生まれたものでした。鈍い金属の色をした斧に体を切り倒されても、切り出された木で作られた椅子がすっかり朽ちても、すべての人から忘れられても。森だけは、切り株のことを覚えていたのです。

 切り株に森の涙が落ちました。返ってきたのは、それはそれは優しい音でした。その音を聞いているうちに、なんだかとても眠たくなってくるのです。

 とん、とん、ころころ。りん、りんりろ、しゃん。

 とん、とん、ころころ。りん、りんりろ、しゃん。


 いつしか、歌はやんでいました。ひだまりをこぼす青空に鳥の影が横切ります。きっと森の涙は、木より高く飛ぶあの鳥の羽に落ちたことはないのでしょう。

 ひよひよと、鳥の歌声が聞こえました。

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