不思議な塔の話
その女の子は、ふしぎな国へとやってきました。そこにはとてもとてもおおきな塔が建っていて、てっぺんなんか雲の中に突っ込んで、到底見えないのでした。
やがてあたりはまっくらになり、塔にいくつもある小さな窓から、ぽつりぽつりとオレンジ色の灯りがこぼれだします。
女の子はためしにこぼれた灯りの近くまで行ってみました。両手をお椀のようにして掬いあげてみると、オレンジ色の光は女の子の手の中に収まりました。それどころか、ちゃぷちゃぷと波打っているではありませんか。
女の子はオレンジ色の光に口を近づけます。ひと舐めしてみると、それはほんのり甘くて温かくて、体が芯から心地よくなりました。
女の子が顔を上げると、塔はゆっくり回り始めたところでした。ゴウンゴウンとエンジンを唸らせながら、もしかすると遠くからではわからないかもしれないぐらい緩やかに回ります。地面に落ちるオレンジ色の光は、動きに合わせてどんどん広がっていきました。
そのオレンジ色の光に集まってくる者たちがありました。羽の色が透明な蝶です。蝶たちは蛹から羽化したばかりで、まだ体に色がありません。塔から落ちた光を取り込むことで、美しい蝶になれるのです。
蝶たちは次から次へと地面へ舞い降り、いつもはくるりとしまっている細長い口吻を光の中に伸ばしました。光を吸い上げる蝶の羽は、みるみるうちに光り輝くオレンジ色へと変わっていきました。
オレンジ色の蝶たちが、女の子と塔の周りを飛んでいます。女の子はつい蝶を触ってみようと手を伸ばしましたが、指の間をすり抜けられてしまいました。
蝶は上へ上へと飛んでいきます。美しい羽を手に入れた蝶は、みんなそうするのです。女の子は、塔のてっぺんに蝶が消えていくのを見ていました。
のんびり屋の最後の一頭が雲の中へ消えると、塔の回転は次第に遅くなりました。窓からこぼれるオレンジの光もぽつりぽつりと消えていき、ついに塔が止まった時にはひとつも灯りは残っていませんでした。
けれどあたりはまったく暗くありませんでした。それどころか、果てからのぼってくる太陽のおかげで眩いばかりに照らされていたのです。
さて、そろそろ女の子は帰らなければなりません。けれどふと、自分の手に目を落としてみました。
小さな手の先、右手の小指の爪の先。温かな光を集めたような、綺麗なオレンジ色にそまっていました。