アルセルド視点3
少し間が空きました…!
「許可をいただきに参りました」
その後何通か手紙のやり取りを行い、良い返事はカケラも貰えることは無かったが、アルセルドは諦めることはせずに半端無理矢理訪問の許可を取り付けた。
最早、許してもらうまで通う覚悟で向かった当日、待っていたのはメルビーナ家当主のライモンだ。
彼は眉を顰め、神妙な出立ちをしてロビーに立っている。
アルセルドとしても歓迎はされないだろうとは思ったが、客間にも通されないのかと落胆の息を吐いた。
ライモンはリオティとは違い、アルセルドの外見は恐ろしく感じるようだった。額には僅かに汗が浮かび、だが、リオティの為に立ちはだかっているのだろう。父親としてとても素晴らしい人間だとよく分かる。
彼は慎重にゆっくり口を開いた。
「殿下にご挨拶申し上げます」
「構いません、嬉しくはない訪問でしょうから」
「何を言いますか。ただ今娘が伏せっており、よりよい対応ができかねまして」
怖がっているのにあからさまな拒絶とは、よほどアルセルドとの婚約が嫌なのだろう。
今まで避けてきた心への負担が逃げたいと叫ぶが、ここにきて簡単に諦めるほど小さな気持ちで訪ねたのではない。
「そんな時に申し訳ありません、ではせめて見舞いだけでも」
「何を言いますか、婚約者でも無い方が女性の部屋を訪ねる事などあってはなりませんよ」
「しかし私は……」
その時、僅かに聞こえてきた自分を呼ぶ声に顔をあげる。
そこに居たのは数ヶ月求めていた美しいヒトであった。
「リオティ……」
自分でも無意識に呟いた、もう話すことが出来ないのではないかと思っていた彼女が目の前にいる。
「アルセルド殿下にご挨拶申し上げます」
「……ああ」
彼女は、初めて出会った時と同じように美しい礼を取った。アルセルドは息を飲み、ただ黙って彼女の姿を見つめる。
ひどい別れ方をした罪悪感もあり、なんと言葉をかけて良いのか分からなかった。
真っ直ぐに向けられる視線が熱く体の中に溶け込んでいく。
頭で考えていた言葉を告げようにも心拍音が頭に響き何も考えることはできなかった。
「リオティ。もしアルセルド殿下とも婚約できるとしたらどちらが良いかな?」
「お父様!?」
止まった時間を動かしたのはリオティの父ライモンだった。
リオティが驚いたのは最もだろう。王族の2人から婚約者を選ぶなどと通常有り得ないことだ。
だが、ライモンはそれが罪に問われてもよい覚悟で、そしてその言葉をわざと使ったことは明白であった。
この場で彼女に直接断れてしまえば、もう求婚することは難しい。一生の傷を負うことも目に見えている。
彼女はおろおろと瞳を動かしていた。
その戸惑いが、本当に言葉にしても良いか困惑している事を願う。
背中を汗が伝う中、彼女の口が開く瞬間を待った。
「もし……わたくしの我儘を聞いてくださるなら……」
「……」
「わたくしは、アルセルド殿下と共に居たい……!」
リオティの真っ直ぐな瞳と目が合う。
溢れ出そうになる涙を隠し、言葉が漏れる。
「ああ。良かった……」
本当に、良かった。
心の奥に光が灯ったような感覚が身体中を巡る。
ようやく自分の中の正しい形になれたようで安堵の息を吐いた。
「アルセルド様」
「リオティ……」
リオティは黙ったままのアルセルドの側に寄り、心配そうに声をかけた。
アルセルドは少しだけ目と頬を赤に染め、嬉しそうに笑う。
「リオティ、改めて伝えても良いだろうか」
「はい、聞かせてください」
「貴女を愛している。私とこの先を共にしてほしい」
「はい……はい!わたくしも愛しております。ずっと離さないでくださいませ!」
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