7話 移動の一日
騒動は引率の先生が来たのに合わせて落ち着きを見せた。各々自分のグループに戻っていき、その場には学友会と、その引率になる先生のみが残っていた。
「・・・何があったかは聞かないでおく。だが、あまり問題ごとを起こされてはこちらも養護しきれなくなることを、理解しておいてくれ。」
「承知しております。・・・でも、万が一そうなろうものなら、私だけでケリはつけますよ。」
貴族らしくないことを言う私の声は、いつもよりも沈んでいたように感じる。
「さて、こんな重い話は終わりにしましょう。そろそろ出発でしょう?馬車に乗り込みましょうか。」
私はペチペチと頬を叩いて、無理やりテンションを上げた。私の心情を汲み取ったウィリアム王子も合わせて調子を上げ、それに伴って他のみんなも頑張ってあげようとしてくれた。少し申し訳なくなりつつも、私は馬車に乗り込んだ。
広大な王国の西側にある王都と、どちらかといえば東側にある今回の林間合宿の場所までは、かなりの距離がある。貴族学園での行事になるため、馬車は機能性とデザインの両方を中庸したもの。・・・つまり、遅い上に振動がひどい。特に、徒歩や領内でゴムタイヤに慣れていた私の体にはかなりの負荷がかかる。
「・・・・すいません・・・・歩いていいですか?」
「別にいいが酔いでもしたか?」
「いえ・・・これ以上は・・・私の体が・・・」
移動に3日かかる。領から王都までの5時間でさえ、私は体をボロボロにしたのだ。体の耐久値が持つはずがないのは分かっていた。
「まあ・・・離れないようにな?」
「はい・・・」
既に弱り果てた私は体を外に投げ出すように馬車から飛び降りた。外を見回しても、私のように外にいる人は誰一人としていない。・・・貴族様強すぎないですか?そんなことを私は思った。
「まあ・・・騎士コースなら少しは歩けばいいのに・・・なんてね」
正直なところ、学園にある騎士科は効率が悪すぎて育つもんも育たないだろうと思う。基礎体力訓練すらせず、ただ剣を振るだけ。数年前、べネーデ公爵領軍の管轄を任された時、効率が悪すぎると父上に文句を言ったことがあるのだが、そのときに「まだ他に比べたらいい方だ」と言われたのがよく分かる。
「はあ・・・近頃北大陸が物騒だって言うのに・・・本当・・・」
私はワイワイ話し声が聞こえる騎士科選択組の馬車に視線を向けながらそんなことを呟いた。中からはやれどこの誰がうざいだのどこの誰が調子乗ってるだのそんな話が聞こえる。そんな大声で話していたら聞こえるだろうになんて思うが、実際私以外に聞こえている人なんていないのだろう。私が少し耳が敏感なだけなのだ。
移動一日目、既に日は落ちかけていた。山道を走る馬車はやがて開けた場所に出て、そこで前から順に停止する。
「アルラウネ嬢。ついたのか?」
「いえ、夜分に山道の馬車は危険ですので、ここで今日は一泊をするみたいですね。そうでしょう?先生。」
「ああ。いま他の馬車でも説明されているだろうが、今日は魔法科組、騎士科組、そしてそれ以外・・・まあ、学友会だな。・・・で別々に野営するんだ。6〜8人の班に分かれてな」
「・・・もしかして、以前配られた持参可能品のところにあった『各自5つまでの自由な持参物』って、このためですか?」
「ああ。まさか、戦闘科目主体の林間合宿で、野営用品を持ってきていないなんてことはないって踏んで、教頭が前日に入れたんだ。」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「その様子だと皆さん自分の研究活動のためのものしか持ってきてませんね!?」
「「「「「「・・・はい・・・」」」」」」
申し訳無さそうな顔をする。
「まあ、荷物からして騎士科組も魔法科組も持ってきてるやつはいないようだ。・・・ほら」
先生が指さした方向を見ると、自分の持ってきた物を持って整列させられている騎士科組と魔法科組の姿が見えた。そして・・・数百人居る内の誰一人としてまともなキャンプ用品を持っていなかったのだ。いや・・・魔法科で魔導杖や魔導書、騎士科で予備の武器や鎧はわかる。なんでドレスやタキシードを手に持ってるんだ?馬鹿なのか?ああ、馬鹿なのか。
「・・・はあ・・・学友会の皆さんは私入れてて良かったですね。ほら、荷物降ろさないといけないんですから、降りますよ。」
「「「「「「「・・・え?」」」」」」」
私のその言葉に、先生含めたみんなが困惑したようだった。
「私一人では組み立てれないので。きっちり働いてもらいますよ。」
「あ、ああ。」
降りてくる学友会のメンバーに荷台に積んでいた私の持参物をもたせる。私が自由持参物の枠で持ってきていたのはA型テント、ワイドタイプの銀マット、キャンプ用調理器具、洗濯用品、そして、簡易浴槽。うん、見事にキャンプ用品である。なんで?当時の私は何を考えてこれを持っていこうとしたの?いや助かるけどさ・・・
「とりあえずあっちの方で立てましょうか。とりあえずテントだけはさっさと張ってしまいましょう。」
「・・・アルラウネ嬢・・・なんというか、すまなかった。」
「すまないと思うなら働いてくださいね♪」
笑顔で私はそういった。楽しい楽しい林間合宿は、まだ始まったばかりだ。
ちなみに自由持参物以外の持ち物は全員共通で変えの着替え、林間合宿の案内書(栞みたいなもの)、そして騎士科組は自分の得意とする武器を必要持参物として入っています。アルラウネは特別に剣を携帯させられています。スカートの裏には他の武器が仕込まれていますがそれは誰も知りません。
ちなみにアルラウネが持ってきているキャンプ用品はべネーデ公爵領にて、アルラウネの経営している家具会社が生産しているものになるので他のものは誰一人として存在を知りません・・・あ、いや、今回の自由持参物を魔導書3冊と生物学書2冊で全て埋めたネリア・ゴレアス伯爵令嬢(アルラウネの親友)だけは知ってたかもしれないですね。




