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魔力無し異端令嬢は学園生活を楽しみたかった・・・  作者: 酒杯樽
学園とアルラウネ
5/10

3話 お呼び出しと仕事、感情論と仕事論

「・・・早退させてまで呼んだ理由をお聞きしても?」


あれから数日。特に何事もなく過ごしていた私にやんごとなき身分の人から呼び出しがかかった。ちなみにその人は・・・


「こうやって呼ぶってことは事務仕事じゃないでしょう?ニヒル国王陛下、ガラント宰相閣下。」

「そこまで見通せるのは流石といったところだな。本来なら来年度の軍事予算について質問したいところではあるがそうも言ってられないのが現実だ。」


実は2人からの呼び出しはこれが始めてではない。入学前に一回呼び出されている。父上から「しばらく領政に精を出す。代わりに娘の宿泊場所を記しておくから頼れ」といつの間にか売られていたらしい。お陰で父上の分の仕事だけじゃなく宰相の分までやらされるようになった。

・・・今日はそんな表の仕事ではないのだが。


「アルラウネ嬢、これを。」

「これは?ああ・・・一応聞いておきますよ」


渡されたのは調査書とかかれた紙だった。資料が細かくなっているのでパット見で何が言いたいのは分かった。その理解に齟齬など生じていない。一応聞くのは軽いジャブだ。


「資料を見る限り・・・そうですね。私が行くのが良いでしょうね。」

「・・・まだ成人にも満たない娘にこのようなことをさせるとは・・・私は国王失格なのかもしれぬな。」

「そんなことはありませんよ。2年前、あのときから既に私はこちら側です。なのでどうか、あなた方はそちら側から足を踏み外さないでください」

「・・・頼んだぞ・・・」


私は軽く笑みを浮かべながら部屋を出た。

私はもう戻らない。戻れない。私が出来るのは唯ひとつ、未来の王国に曇りがないよう影から霧を払うこと。


夜、王都。ショールス・ゼノヴィア伯爵は平民街を出歩いていた。貴族学院に通う息子の同伴という名目で領から離れている。しかし本当の目的は・・・


「フフッ・・・今夜は上玉だな」


視界に写った少女を見て、黒く微笑んだ。

毎夜毎夜、伯爵は平民街を歩く。子女を見つけたら貴族の権力を使って連れ去る。その後は伯爵の気分次第だ。自分で使い込むのも、さっさと金にすることも。

 今日の獲物は上玉だった。長くサラサラな緑かかった銀髪。加工前の天然の翡翠のような色合い。後ろ姿だとしても整ったきれいなボディラインだと分かる。妾として持ったとしても十分に持て余してしまうだろう。こんな上玉、逃すわけにはいけない。口角を上げながら少女の後をつけていく。それはそれは長いこと。気づかぬ内にスラム街まで来ていた。


「ショールス・ゼノヴィア伯爵ですよね?」

「!?」


歩を止めた少女はゆっくりと振り返った。嫌な汗が流れた。後ろからでも予測できた少女の美しい顔が視界に入る。最適解と言っていいほどにその外観に合う赤色の目は、落ち着いた言動とは違い狂喜に満ちていた。


(まさか!?最初k・・・)


彼の思考で考えれたのはそこまでだった。なぜならもう、彼の意識は麗しき姫の左手に握られた血濡れの剣によって混沌の闇に放り込まれていたのだから。

人間の五感の中で最も最後まで機能するのは聴力だと言われる。


「やっぱり、好きなのかな。人殺しが・・・」


暗闇の中でそんな声が聞こえた気がした。


いつ踏み外したのだろうか。公爵領内で一時期有名だった女性を玩具のように扱い捨てる玩具商を始末した時?それよりも前に領内の盗賊すべての集まりを壊滅させた時だろうか?いや、もしかしたら私は自身の性格の本質から殺しが好きだったのかもしれない。もっと言えば前世から。

気がつけば、私は泣いていた。流石にこの場で嗚咽を漏らしたら私が殺ったとバレてしまうので漏らすことは出来ない。しかし、溢れ出る涙を止めることもまた、出来ようがなかった。


「・・・帰るか。」


月明かりが照らす中、いつもの酒場まで戻った。もちろん帰路の途中で誰かに出会うなんてことはない。ただ1人、暗くもない夜道を歩く。いつもより歩が遅く感じる。いや、実際に遅いのだろう。


「御子息さんにどう顔向けすれば・・・」


学院内でも紳士で明るいと評判の子息、アルト・ライン・ゼノヴィアがふと頭によぎった。1学年下の私にも優しく接してくれたのはつい数日前だ。


(いや、後悔しちゃいけない)


頭を振るって考えを否定した。ただ功利主義で動いただけ。そう思って無理やり心の中を軽くした。

 やっとのことで酒場に着いた時、もう朝日は昇りかけていた。


「おかえりなさいませ。今日は休みとの報告を伝書鳩にて送っておきました。今日はゆっくりお休みください。」

「ありがとう、マスター。・・・頼りになるよ。本当。」

「・・・・私は、貴方様が犯罪者を斬る行為が好きだということを否定するつもりはありません。ですがその行為のせいで貴方様が精神をすり減らすことは否定させて頂きます。殺しのせいで自身の精神を犠牲にするのならば、・・・辞めてしまいなさい。そんな仕事。国王陛下の命が何だというのです。それは貴方の精神まで侵食するような拘束力はありません。国王陛下自身も貴方に仕事を頼むのは気が引けているのでしょう?」

「・・・でも」

「でもじゃありません。それに、貴方は自身が手を染めなくても国民が平和に暮らせる方法を知っているでしょう?自身の領から国全体に変わっただけ。貴方にはそれを出来る力があるでしょう?何のために努力してきたのです?今の貴方は、自身のすべてを否定しているのと変わらないのです。どうか目を覚ましてください」

「そっか・・・少し考えてみるよ」


休むために二階へ上がる足取りは、少し軽くなったような気がした。

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